先日、文喫の“選書”サービスを利用して「泣ける本」のリクエストをしてきました。
「想像ラジオ」はその時に紹介して頂いた本の中で、1番読んでみたいと感じた作品です。
やさしげなイラストに親しみを感じ、不思議なタイトルに惹かれました。
この作品は東日本大震災を背景にしており、非常に取り扱いが難しい題材を扱っていることも興味深く感じた要因のひとつ。
早速読んでみたところ、第一印象とは全く違った感想を抱きました。
正直に言うと「私には合わない」と感じてしまい、何を伝えたいのかわからない不思議な展開に思考停止寸前……。
あまりにも掴みどころがなかったので解説に目を通してみると、意外にもこの作品の奥深さが見えてきました。
深く読み解かないと理解ができない難しさがありますが、生者と死者の新しい関係を描いたメッセージ性の強い作品です。
今回は、いとうせいこうさんの「想像ラジオ」のブックレビューをお届けします。
東日本大震災を背景に、生者と死者の新たな関係を描く
大きな地震が起きて津波に流され意識を失ったDJアークは、天を刺すような高い杉の木のてっぺんに仰向けで引っかかった状態で目覚めます。
身動きが取れず途方に暮れる中、海沿いの小さな町を見下ろすこの場所から、「想像」という電波を使い「想像力の中」だけで聴こえるラジオ番組のオンエアを始めることに。
さながら本物のラジオのようなこの放送は、テレパシーのような不思議な力で次々とリスナーに届きます。
DJアークは地震の直後から音信不通となった妻を探すために「想像ラジオ」で呼びかけますが、何万人にも伝わるこのラジオを以ってしても妻とは連絡が途絶えたまま辿り着けません。
そんな中、リスナーから届く街の惨状を伝えるお便りを読み上げながら、DJアークは自分が置かれているのっぴきならない状況に気付き始めます。
大きな地震が起きて、街は流され、人っ子一人いなくなった静寂な夜。
果たして妻は無事なのか、自分はこの先どうなってしまうのか……。
そんな恐怖を紛らわし、たくさんの人たちとのつながりを残すため「想像ラジオ」の放送を続けるDJアークは、妻の声を聞くためにさらに深く想像し続けます。
東日本大震災を背景に生者と死者の新たな関係を描く、空想のラジオ配信物語です。
情景が浮かばず、理解するのが難しい作品
この作品は文喫で「泣ける本」として紹介され最も興味を惹かれましたが、実際に読んで抱いた感想は「私には合わない」でした。
「物語の情景が浮かばず、DJアークの軽いノリにもついていけず、なんだか良くわからなかった」というのがその理由です。
全体的に説明不足で、次々と浮かぶ「なぜ?」という疑問が解決しないまま物語が終わってしまい置いてけぼりに……。
また、「生と死」を題材にしている割には語られる内容は軽く、読んでいてまごつきます。
ラジオで流される曲もマニアック過ぎてほぼ知らず、「あはは」と繰り返されるノリにもついていけず、物語の意味もよくわからない……。
絵が浮かばず、音も流れず、退屈な絵空事のような物語で、非常に微妙な作品だと思ってしまいました。
「解説」を読むと奥深さが見えてくる!
普段、書評を書く前に解説を読まないようにしています。
どうしても解説の意見に引っ張られてしまう気がして、自分の意見がブレてしまうからです。
しかし、この作品はあまりに掴みどころがなかった為、どんな解説が書かれているのか気になり読んでみました。
すると、読んで全く気づけなかった様々なロジックに気付かされることに……。
私ならなんとも説明がしにくい「想像ラジオはどんな小説か?」という問いには「樹木が小説になった世界」という答えが書かれます。
これは「想像ラジオ」の舞台がなぜ杉の木のてっぺんなのかということにも繋がりますが、樹木は生と死が混ざり合った特殊な生き物だからです。
私は解説を読むまで知りませんでしたが、生きている組織だけの草花に対し、死んでいる組織と生きている組織が共存しているのが“樹木”になります。
「想像ラジオ」の世界観はまさにその「樹木」なのです。
「生と死」が共存している世界観
この作品では、樹木と同じように人間の世界でも生きている者と死んでいる者は持ちつ持たれつで、決して一方的ではないふたつでひとつの関係なのだということが描かれます。
何千年も生きる木と同じように「生と死」が渾然一体となっているからこそ人間の世界にも歴史が刻まれ、生き続けられるのです。
つまり、生きている人は死んでいる人を心に宿し、その逆も然り死者と生者がひとつになって未来を作っているということ。
解説を読まなかったら絶対にここまで読み解くことはできませんでした。
読む前の期待感と、読んで抱く残念な感想と、解説を読んだ後の驚き……!
1冊の本でここまで異なる印象を受けた作品は珍しく、そういった意味では楽しむことができました。
死者と会話できる唯一の方法が「想像」すること
私なりの「想像ラジオ」の解釈ですが、死者と会話できる唯一の方法が想像することなのではないかと思います。
もしかしたら死んだ者同士は会話ができるのかもしれませんが、生きている者と死んだ者が会話をすることはできません。
できるのは想像することだけです。
心に語りかけるように想い続けることで、はじめて死者と繋がることができ、一緒に未来を作っていることに気付けます。
想像すればいつでも繋がることができる!
東日本大震災が起きた2011年の5月から8月にかけて、私は立て続けに3人の友人を亡くしました。
その際に不思議に感じたのですが、死んでから会いに来てくれた友人と、そうでない友人がいたのです。
以前、「とりつくしま」という本のブックレビューを書いた際にも少し書きましたが、会いに来てくれるというのは端的に言うと「頻繁に思い出す」ということなのですが……。
しかし、「想像ラジオ」を読んでそれは少し間違っていたのかもしれないと気付きました。
友人が私のところに来てくれただけでなく、私自身がそばにいてほしいと願ったからこそ身近に感じることができたのだと。
受け身になる必要はどこにもないはずなのに、今まで気付きませんでした。
想像すればいつでも繋がることができるということは、私にとって少し救われる考え方です。
まとめ
「想像ラジオ」は文喫の“選書”サービスで「泣ける本」として紹介して頂いた作品です。
文喫ではリクエストしたテーマに沿って書店員さんが本を選んでくれる“選書”というサービスがあり、普段自分ではたどり着けないような作品に出会えます。
今回「泣ける本」として紹介して頂いた7冊の作品の中で「もっとも読んでみたい」と感じたのが「想像ラジオ」です。
期待して読んだところ、掴みどころのない物語と軽いノリについていけず、戸惑いを隠せませんでした。
しかし、解説に目を通してみると印象が随分と変わります。
生と死が一体となって存在する「樹木」のような世界観を持ち、読み手を選びそうではありますが、強いメッセージ性がある作品です。
正直、私はあまり好きにはなれませんでしたが、同じ本でも人によって様々な感想を持ち、さらに自分自身でも物語の捉え方によってまた違った感想を抱くことができ楽しめました!