世界優良図書リスト『ホワイト・レイブンズ』に選ばれた!小手鞠るいの「ある晴れた夏の朝」

f:id:yuuri_hikari:20190701154249p:plain

今回紹介する作品は小手鞠(こでまり)るいさんの「ある晴れた夏の朝」です。

この作品は児童文学ですが、第65回青少年読書感想文全国コンクールの課題図書(中学生の部)に選ばれています。

それだけではなく、優れた児童書を世界中の子どもたちに広めるという目的で刊行されている世界優良図書リスト『ホワイト・レイブンズ』の2019年版にも選ばれるという大快挙!

59カ国37言語の図書200点のうちの1冊です。

そんな素晴らしい肩書きを持つこの作品は、アメリカの高校生による“原爆の是非”を問うディベートの風景が描かれています。

「原爆とはなんだったのか?」「なぜ広島と長崎に落とされたのか?」

このような疑問をアメリカの高校生に説明できる人が、果たしてどれほどいるでしょうか?

戦争と平和について思い切り討論する高校生たちが描かれた熱い青春小説です。

アメリカの高校生が“原爆の是非”を熱く討論する!

主人公のメイ・ササキ・ブライアンは、アメリカ人の父と日本人の母を持つ15歳の高校生。
(アメリカでは中学が2年、高校が4年制)

日本で生まれ4歳まで過ごした後にアメリカで生活をしている日系アメリカ人です。

アメリカでは6月から8月までの3ヶ月ものあいだ夏休みがあり、各々サマーキャンプやアルバイト、はたまた旅行に出かける人もいます。

ある日、夏休みの予定を決めかねていたメイの元に、秀才と名高い1学年上の先輩であるノーマンと、飛び級で更に上の学年にいるスコットが訪ねてきました。

メイは2人からサマースクールの一環として、「原爆の是非を問うディベートに参加して欲しい」と頼まれます。

コミュニティーセンター主催のカルチャーイベントとして、町の図書館の中にあるホールに大勢の人を呼び、公開討論会を催すというのです。

急な話に戸惑いながらも2人に押し切られる形で出場を決めたメイ。
しかし、その時はこれから待ち受ける汗と涙の日々を想像もしていませんでした。

アメリカの高校生たちによる原爆の是非を問うディベートを通じて語られる平和への願い。

その熱い想いが読者の心を震わせる青春小説です。

熱いディベートの風景が手に汗握る!

「ある晴れた夏の朝」で描かれるのは、アメリカの高校生8人(4人対4人)によるディベートです。

夏休みの数日間に渡り「公開討論会」という形で催されるディベートの風景は、まるで会場で聴衆しているかのような臨場感があり、手に汗握ります。

ディベートのテーマは、先述したように“原爆の是非”を問うこと。

第二次世界大戦中にいずれも日本に落とされた2つの原子爆弾は必要だったのか否か、またその理由に至っても詳細に語られていきます。

非常にショッキングな内容ではありますが、日本でも語られることの少ない原爆の話題に正面から向き合ったアメリカの高校生は頼もしく、好感を呼ぶものでした。

原爆を肯定する側も否定する側も、望んでいるのは平和です。

同じ平和を目指す思想がここまで対極にあることは特筆すべき点で、それがディベートという形で理路整然と語られていくところにこの物語の意義を感じます。

「戦争と平和」についての論争は、児童文学としてだけでなく、全ての年代や人種を問わず語り合うべきテーマではないでしょうか。

平和を願う人種を超えたメッセージ

「ある晴れた夏の朝」はディベートが物語の核となるため“原爆の是非”について意見を戦わせるわけですが、日系アメリカ人であるメイは原爆反対派として参戦します。

通常のディベートでは自身の信念にかかわらず、賛成派と反対派に便宜的に分けられて討論をしますが、この公開討論会では自身の信念に基づく主張をすることに。

しかし、メイと同じく日系アメリカ人のケンは賛成派として原爆を肯定し、原爆の必要性を熱く語るのです。

なぜケンは日本に出生の由来があるにも関わらず、日本に落とされ多くの命を奪った原爆を肯定するのでしょうか。

それは物語の中でも重要なファクターとして語られます。

「アメリカ人は」「日本人は」というナショナルアイデンティティは“国民としての自己認識”を指しますが、世界平和を考える上で重要なのはもっと大きな視点です。

つまり、「人類は」という1つの大きな共同体として生きている事実を受け入れること。

この作品は、平和を願う人種を超えたメッセージが描かれており、その熱い想いに触れることで大きな感動に包まれます。

中学生向けの課題図書ではありますが、枠にとらわれず小学生にも高校生にも読んでほしい作品です。

大人も楽しめる児童文学にとどまらない作品!

私がこの本を知ったきっかけはツイッターで偶然見かけた小手鞠るいさんのつぶやきでした。

中学生の課題図書に選ばれた作品ですが、36歳の私でもまったく大丈夫とのこと!

しかもジンやウォッカをベースにした甘くないカクテルと共に読むのがオススメと言われたら、これは仰せの通りに楽しむしかありません……!

なによりも、お酒の話を一切していないのにも関わらず、私の本質を見抜いてくださって感激です!笑

早速、ジンリッキー(ジンとライムをソーダで割ったカクテル)を片手に読んでみると、なるほど苦味のあるカクテルをオススメされたのはそういうことかと納得!

ほろ苦いカクテルを飲みながら、原爆の悲惨さや「それでも原爆は必要だった」という主張、平和を願う熱い想いなど、鳥肌が立つようなディスカッションを目の当たりにして痺れました。

最後のページではほろ酔いの中、感動して思わず涙が溢れそうになるほど……!
胸にのしかかるテーマですが、読んで良かったと思いました。

児童文学ではありますが、大人にもオススメの作品です。

まとめ

「ある晴れた夏の朝」は、アメリカの高校生たちによる“原爆の是非”を問うディベートの風景が描かれています。

読書感想文全国コンクールの課題図書に選ばれただけのことはあり、非常にセンセーショナルな内容でありながら、理路整然と国際的な問題について深く語りかけてくる作品です。

もはや戦争を知る人がほとんどいなくなった今、“原爆の是非“について本を通じて伝えていくことは非常に有益だと私は思います。

なぜなら、読書の本質は想像することであり、「戦争と平和」を考えるにあたり想像することが重要だからです。

この作品の一節にも書かれていますが、1冊の本には人を動かす力があり、人を変える力もあります。

たくさんの学生に、また大人にも手にとってほしい作品です。