七月隆文の「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」は2度読みたくなる恋愛小説!

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私が七月隆文さんの「ぼくは明日、昨日のきみとデートする(以下“ぼく明日”とします)」に出会ったのは、カバーイラストを手がけるカスヤナガトさんの影響です。

カスヤナガトさんといえば、数多くの書籍カバーイラストを手がける売れっ子イラストレーター。

有川浩さんの「植物図鑑」や夏川草介さんの「神様のカルテ」など、著名作家のカバーイラストも手がけています。

私は「ぼく明日」を買うまで七月隆文さんの本を読んだことがなかったのですが、どこかで見たことがあるカスヤナガトさんのイラストに吸い寄せられました。

読みやすそうな装丁に“いい本の予感”を感じ取った私は「これは読むしかない!」と前情報一切なしで購入したのがこの本との出会いです。

それがこんなに泣かされる小説だったとは……!

100万部を超える大ヒットとなり映画化までされて、主題歌は私の好きなbuck numberが手がけました!

今回は、2度読みたくなること必須な恋愛小説「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」のブックレビューをお届けします。

あらすじ

物語は美大に通う南山高寿(みなみやまたかとし)が通学電車の中で一目惚れをするところから始まります。

今まで誰とも付き合ったことがなく、ナンパなんてもってのほか。
そんな奥手な高寿は、名も知らぬ女の子に心を奪われてしまったことに自分自身が戸惑いを隠せません。

それでも、この一目惚れに運命を感じ、勇気を振り絞って声を掛けることに……。

相手の女の子は福寿愛美(ふくじゅえみ)。

高寿から「一目惚れをした」と告白をされたその別れ際、「また会える?」と聞かれた愛美は突然泣き出し、高寿に抱き着きます。

驚く高寿はこの時の涙の理由を知る由もありませんでした。

翌日、再会した二人は意気投合し、やがて付き合い始めることに……。

初めてデートした時、初めてお互いを名前で呼び合った時、初めて手を繋いだ時、愛美は何故か涙を零します。

「わたし、だいぶ涙もろい」という愛美を不思議に思いながらも高寿は優しく受け止め、2人は愛情を深めていきます。

「あなたの未来がわかるって言ったら、どうする?」

高寿は少しずつ愛美の言動に違和感を感じ始めます。

学校に提出するキリンのクロッキー画が教室の後ろに張り出されることを愛美はそれより前に知っていたり、高寿が書いた誰にも見せたことがない小説のヒロインの名前を何故か知っていたり……。

その都度うまくごまかされてきましたが、愛美には「予知能力があるのではないか?」と疑念を抱きます。

それでも順調に付き合いを重ね、2人は愛し合う関係に……。

そんなある日、「隠してきたことを全部話す」と、愛美は突然言い出します。

どんなことでも受け止めようと決心した高寿ですが、彼女の秘密は想像もできないようなことでした。

そして2人の運命はすれ違いはじめます。

奇跡の運命で結ばれた2人を描く、甘く切ない物語。

彼女の秘密を知った時、きっと最初から読み直したくなりますよ。

書評

読み始める前は、“軽めでサクサクと読める恋愛小説”くらいにしか思っていませんでしたが、いい意味で期待を裏切られました。

「ぼく明日」はただ読みやすいというだけでなく、設定(トリック)が面白く、想像の斜め上をいきます。

恋人が病気になったり、死んでしまったりといった恋愛小説の王道とは少し毛色が異なり、SF的な要素があることが特徴です。

種明かしされると単純な設定ですが奥が深く、大ヒットした新海誠さんの「君の名は」や、市川拓司さんの「いま、会いにゆきます」に通じるところがありますね。

この作品の良さは、単純でありながら複雑なその設定(トリック)にあります。

2度読みたくなり、2度目こそ泣ける

この書評を書くために改めて読み直したのですが、私は序盤で泣きました。

2人が初めて出会った日の別れ際に、高寿が「また会える?」と聞いたところがピークです。

初読では意味がわからず泣くようなシーンではないのですが、2巡目では切ないシーンにしか見えません。

同じ文章を読み直しているのに、感想がまったく異なる点が面白いですね。

1巡目では設定について行くのに気を取られてしまうので、2巡目の方がより楽しめるはずです。

読書家には敬遠されそう

「ぼく明日」は、文章力や表現力といった観点を期待すると正直厳しく、どうしても稚拙さを感じてしまいます。

そういった意味では薄っぺらい作品だと酷評する人も中にはいそうです。

私は恋愛小説が好きでよく読みます。

高校生の頃から読んできた村山由佳さんの「おいコーシリーズ」をはじめ、片山恭一さんの「世界の中心で、愛をさけぶ」、江國香織・辻仁成さんの「冷静と情熱のあいだ」、島本理生さんの「ナラタージュ」、唯川恵さんの「肩越しの恋人」など、たくさんの恋愛小説を読んできました。

心理描写が丁寧に描かれた感情移入のできる恋愛小説も好きですが、漫画を読むように気軽に楽しめる作品にも抵抗がありません。

私のように、軽めの小説も好きな方や読書初心者の方でしたら楽しめると思いますが、文学賞を受賞するような言葉の美しさや表現力を求める方にはあまりオススメできません。

ラノベ出身作家に対する偏見はもったいない!

10代〜20代を中心とした若者向けに読みやすく描かれるライトノベル(通称ラノベ)。

七月隆文さんはラノベ出身の作家のため、「ぼく明日」は一般文芸として出版されてはいますが、描かれ方はあくまでも若者向けで軽いです。

そのため、「ラノベには抵抗がある」という方は手に取らない方が良いかもしれません。

しかし意外と知られていませんが、「インシテミル」の著者である米澤穂信さんをはじめ、「私の男」で直木賞を受賞した桜庭一樹さんも実はラノベ出身です。
以前に紹介しました「阪急電車」でおなじみの有川浩さんも出身はラノベでした!

sutekinayokan.hatenablog.com

ラノベ出身の作家だからといって、面白い本に出会う可能性を潰してしまうのは正直もったいない!

読まず嫌いなだけで、意外とハマるかもしれませんよ。

私も普段ラノベは読みませんが「ぼく明日」を読んだことがきっかけとなり、七月隆文さんの一般文芸として出版されている作品は全て読みました。

中でも「君にさよならを言わない」の1巻・2巻はとても気に入っており、続編を楽しみに待っているほどです。

「ぼく明日」を読んで「面白かった!」と感じた方には強くオススメします!

「時尼(じにぃ)に関する覚え書」からの盗作疑惑について

インターネットを見ていると、「ぼく明日」は梶尾真治さんの「時尼に関する覚え書」という小説のパクリであるという書評がちらほら見られます。

梶尾真治さんと言えば「黄泉がえり」が大ヒットしたベテラン作家。

「時尼に関する覚え書」は「美亜へ贈る真珠」に収録されている作品ですが、わずか36ページしかない ので20分〜30分で読めてしまう短編小説です。
(ちなみに同作品は「恐竜ラウレンティスの幻視」という短編集にも収録されています)

1990年に発表された作品ですが、2016年に装丁が一新され新版が出たところから察すると(カバーイラストも若向きになっています)、「ぼく明日」の影響を感じずにはいられません。

確かに類似しているが、「ぼく明日」に対する愛着は変わらず

「時尼に関する覚え書」は未読だったため、内容が気になり早速読んでみました。

簡潔に感想を述べますと、「時尼ってヒロインの名前だったの? え? “じにぃ”って読むの?」という疑問から始まり、「設定が矛盾していて、内容が破綻しているような気がする……」という疑問で終わる作品でした。

調べてみると「時尼に関する覚え書」は、1939年に発表されたロバート・ネイサン著の「ジェニーの肖像」のオマージュ作品であるとのこと。

時尼(じにぃ)=ジェニーなんですね……。

盗作疑惑について詳しく考察するとネタバレになってしまうため敢えて書きませんが、私は「ぼく明日」に対する愛着は変わりません。

確かに類似しており「時尼に関する覚え書」の方が先発ですが、読んだ後に抱く印象は全く異なります。

むしろ、「時尼に関する覚え書」の設定についてはツッコミどころが多すぎますね。

批評するつもりはありませんが、気持ちのいい恋愛小説とは言えず、中核部分の設定に矛盾もあるためSFとしても成り立っていないかなと。

色々書きたいのですが、36ページの内容を説明しようとすると、即ネタバレに繋がってしまうのでここは我慢して終わります。
気になった方は是非読んでみてください。

両作品を読んだことがある人と読書会ができたら白熱しそうです。

まとめ

「ぼく明日」は2014年に出版されてから、オリコン文庫売り上げランキング上位の常連にまでなった作品です。

2015年 9位 (推定売上部数43万部)
2016年 4位 (推定売上部数48万部)
2017年 12位(推定売上部数30万部)
ORICON NEWSより

「薄っぺらい作品」だと敬遠されそうなイメージがありますが、これだけ沢山の人に読まれているのは事実です。

私は読書に関しては非常に涙もろいのであまり参考にならないかもしれませんが、特に読み直した2巡目はその切なさに泣きました。

彼女の秘密を知った時、きっと2度読みたくなるはずです。

まだ、秘密を知らない方はぜひ手にとって見てください!

ちなみに、私の仕事仲間である40代後半の男性も「ぼく明日を読んで泣いた!」と、熱く語っていました。

意外とハマるかもしれませんよ。