前代未聞の“読者が犯人”となるミステリー!深水黎一郎の「最後のトリック」

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今回紹介する作品は、ミステリー史上初の“読者が犯人”となる問題作! 深水黎一郎(ふかみれいいちろう)さんの「最後のトリック」です。

「読者が犯人って一体どういうこと!?」と、誰もが思うこの作品。

実際に読んでみると本当に読者が犯人になってしまいます。
つまり私も犯人の1人です。

このトリックは「意外な犯人」を追い求める昨今のミステリー界において、まさに「究極の犯人」を描いた作品と言えるもの!

Amazonのレビューを見ていると「ミステリーの掟破りだ」という意見もあり、賛否両論どころか“否定”ばかりが目立ちますが、私は「いつ犯人になってしまうのか?」とドキドキしながら楽しく読むことができました。

今回は、誰も成し遂げられなかった不可能トリックを描いたミステリー、深水黎一郎さんの「最後のトリック」のブックレビューをお届けします。

初めて犯人になりましたが、決して悪くありませんでしたよ。

ミステリー界最後の不可能トリックを描いた叙述ミステリー!

主人公は新聞の連載小説を執筆中のとある作家。

スランプに悩まされ、藁にもすがる思いでネタを探しては小説を書き進めていました。

そんなある日、香坂誠一(こうさかせいいち)という人物から謎の手紙が届きます。

その手紙にはなんと「読者が犯人というミステリー界最後の不可能トリックのアイディアを2億円で買ってほしい」と書かれていました。

不信感を拭えない主人公でしたが、次々と届く手紙には切実さを感じずにはいられません。

香坂誠一とは一体何者なのか!? そして“読者が犯人”となるミステリー史上最初で最後のトリックとは……?

驚愕のラストを読み終えたとき、読者が犯人となってしまう今までになかったミステリー小説です。

“読者が犯人”となる前代未聞の問題作!

「最後のトリック」は、ミステリー史上初めて“読者が犯人”となるトリックを描いた作品です。

このトリックですが、「なるほどな!」という納得と「それはありか?」という腑に落ちなさが半々くらいの割合です。

人によっては全く納得できない方もいるかもしれません。

私は幼い頃の夢が「ミステリー作家になる」ことだったので、今まで比較的多くの推理小説を読んできました。

本格ミステリーを読むときは「ミステリーの掟」を肝に命じて読みますし、謎解きや犯人当てを楽しみます。

「ミステリーの掟」とは諸説ありますが、「ノックスの十戒」「ヴァン・ダインの二十則」など、推理小説を書く上での基本指針のこと。

簡単に言えば、「トリックは科学的でなくてはならない」「偶然や第六感によって事件を解決してはならない」など、ミステリーを読む上で当たり前であり、かつ重要な内容です。

「最後のトリック」はこれらの規則が守られているかどうか考えるとグレーゾーンと言わざるをえません。

この作品で描かれる状況下を作り出すことは現実的には容易ではない(絶対に不可能でもない)というのがその理由。

ネタバレを避けるために詳細な説明は避けますが、納得できない人も多そうで、賛否両論あるのは頷ける作品です。

実際に、Amazonのレビューでは評価1と2が多数を占めており、賛否両論どころか“否定”ばかりが目につきます。

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ここまで低評価を受ける作品は珍しく、この作品の尖り方がよくわかります。

ミステリーが好きな人ほど「最後のトリック」が許せないのかもしれません。

トリックを成立させるための緻密な構成が面白い!

私の個人的な感想ですが、“読者が犯人”というトリックを成立させるために緻密な計算で物語が作られており、のめり込むものがありました。

主人公である小説家の日常と、彼の元に届く手紙が並行して物語が構成され、トリックを完成させるための布石が次々と打たれていきます。

そして、物語の中で人が死にますが、最後の手紙を読んだ時に、読者が犯人となってしまうのです。

読者の先入観や文章上の巧みな仕掛けによって、読者をミスリードへと誘う書き方を「叙述トリック」と言いますが、この作品はまさに叙述トリックを巧みに利用したミステリーです。

“読者が犯人”となるトリックは、次々と描かれる伏線によってこの物語の中では一応筋が通っているため、私は「アリ」かなと思います。

トリックだけにこだわると半分納得できない部分もあるので低評価になってしまうのかもしれませんが、私は全体を通して楽しく読むことができました。

一体いつ自分が犯人になってしまうのかと、ドキドキとしながら読み進めたものです。

逆に言うと、全体的な構成が良かっただけに「最後のトリック」で裏切られたと感じる人が多いのかもしれません。

ビブリオバトルで優勝した作品!

「最後のトリック」はマイナビ第5回全国高等学校ビブリオバトルで優勝した作品です。

ビブリオバトルとは愛読書の魅力を「5分間の制限時間」と「3分間の質疑応答」の中で熱く語る書評合戦で、観客500人の投票で優勝が選ばれます。

2019年1月20日に行われたビブリオバトルで、「最後のトリック」を紹介した静岡県代表の県立富士宮西高校2年の遠藤駿介さんが優勝しました。

www.youtube.com

この本が世間に広く知られたのは、間違いなく遠藤さんの熱いプレゼンのおかげですね。

「普段本を読まない」という遠藤さんのざっくばらんな書評トークはかなり面白いものでした。

好きな本を紹介して「読みたくなった本」の投票数を争うビブリオバトルは、今後も目が離せません!

まとめ

「最後のトリック」はミステリー史上最初で最後の“読者が犯人”となる究極のトリックを描いた作品です。

このトリックは納得できない人も多く、好き嫌いがはっきりと分かれます。
実際にAmazonのカスタマーレビューを見ても、低評価が70%を占めるかなり尖ったミステリーです。

いつの時代に誰が読んでも“読者が犯人”となるこのトリックを成立させるために、緻密な構成で読者を犯人へと誘います。

物語の中で人が死にますが、その犯人はこの物語を読んだ読者です。

犯人になるのは怖いかもしれませんが、意外なことに気分はそこまで悪くありません。

気になった方はぜひこの本を手にとって殺人犯の気分を味わってみてください!

もしかしたら、癖になるかもしれませんよ。