新海誠の「小説 天気の子」は、運命に翻弄された少年と少女の葛藤を描くSF恋愛小説!

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今回紹介する作品は、話題沸騰の映画原作である新海誠(しんかいまこと)さんの「小説 天気の子」です。

新海誠さんといえば、日本のアニメ界で今もっとも注目されている映画監督のひとり。

社会現象にまでなった「君の名は。」の大ヒットから3年が経ち、今回満を辞して最新作「天気の子」が全国359館、448スクリーンで公開されました。

映画公開の1日前に刊行された「小説 天気の子」は、もちろん映画の原作小説なのですが、新海さん自らが執筆した作品です。

さらに巻末の解説には、主題歌や劇中の音楽監督を担当したRADWIMPS(ラッドウィンプス)の野田洋次郎さんの名前が……!

今回は、映画とは一味違った物語「小説 天気の子」のブックレビューをお届けします。

思春期の少年と少女の葛藤を描くSF恋愛小説!

高校1年生の帆高(ほだか)は、窮屈で息苦しい親や学校から逃れるために離島から家出をし、憧れていた東京にやってきました。

家出の軍資金がなくなる前にバイトを探して自立を試みますが、身元不詳の高校生を雇ってくれる店などありません。

途方に暮れる中、偶然知り合った男が経営するゴシップ雑誌の雑用兼ライターとして住み込みで働くことに……。

天候の調和が狂い連日雨ばかりが降り続ける東京で、ネットで話題の「100%晴れ女」や「裏世界へのエレベーター」などの都市伝説の取材に明け暮れる新しい生活が始まりました。

そんなある日、雑踏ひしめく新宿の片隅で、帆高は不思議な能力を持つ少女・陽菜(ひな)に出会います。

彼女は祈るだけで空を晴れにできる力を持っている、噂の「晴れ女」でした。

運命に翻弄された少年と少女が、自らの生き方を選択し、共に生きていくSF恋愛小説です。

学校の教科書には書かれない伝えたいこと

「小説 天気の子」は、学校の教科書には書かれない、政治家の言葉でもない、大切な人への想いが描かれます。

また、もっと踏み込んだ話をすると「大人にならなくてもいい」「世界を壊してもいい」というメッセージも。

世界なんてどうせ元々狂っていて、たとえ氷河期であってもそれはただの歴史の一部にすぎません。

大切なのは、何も考えずに大人になって世界の歯車になることではなく、自分で選んだ世界を愛すること。

私はこの作品を読んで、「運命は自分次第だ」と解釈しました。

少し薄っぺらさを感じるかもしれませんが、抽象的でわかりにくい作品よりも私は好きです。

新海さんの想いがストレートに伝わってきます。

映画「天気の子」を観てきました!

小説を読んだ後に、映画「天気の子」を観てきました!

まず1番の感想は、やはり新海誠さんの作るアニメは美しいです。
雨や涙などの「水」の描かれ方にこだわりを感じます。

この映像美を堪能するだけでも映画を観る価値がありますね。

映画と小説の違いに着目して鑑賞しましたが、一言で表すならば登場人物の心理描写の描かれ方です。

主人公である帆高の心理描写が中心となって描かれる映画に対して、小説は主人公以外のキャラクターの心理描写もしっかりと描かれます。

映像や音声がない部分を補完する意味合いが強いと思われますが、詳細に語られる小説の方が物語を深く理解できました。

しかし、映画の方が観ていてとてもわかりやすくて良かったです!

それぞれに違った良さがあるので、映画と小説、両方の世界観を合わせて楽しむことで本領発揮する作品ではないかと思います。

映画とは全く異なる表現方法が味わえる!

映画と小説は全く異なる表現方法が使われたメディアです。

映画は大きなスクリーンで、迫力の音響技術を駆使しながら、登場人物が感情のこもったセリフを喋り、画面いっぱいに動き回ります。

一方、小説は手のひらの上で文字を読むだけ。
主人公は喋らないし、勝手に動かない。もちろん音もしません。

しかし、想像する力があれば、小説が表現できる世界は無限大に広がります。

また、時間の限られた映画では表現しきれない登場人物の心理描写を詳細に描くことができる点が、小説の強みであり醍醐味です。

空の中で水しぶきが魚のように跳ね、風にたなびいた水面に波紋が広がり、雲の隙間から光が射す幻想的で美しい世界。

その中に、自然と溶け込ませた登場人物の心の機微。

小説「天気の子」は、映画のような世界観を全く異なる方法で見事に表現しています。

野田洋次郎さんの解説は読む価値あり!

冒頭にも書きましたが、巻末の解説はRADWIMPSの野田洋次郎さんが執筆しています。

この解説が非常にわかりやすくて素晴らしい!

人の心を動かす音楽を作れる人は、やはり文章を書くこともうまいのですね。

僕たちはこの世界の美しさも、醜さも、儚さも、悲しさも、自分たちで決めることができる。
誰ひとり他人の心の中だけは縛ることはできないのだ。

そう解説する野田さんの言葉は核心をついていて、この作品で表現されるテーマそのもの。

私たちは「素晴らしい世界に生きること」も「息苦しく世の中を嫌うこと」も自分の手で選ぶことができます。

私は大学生の頃からRADWIMPSのファンでもありますが、映画の音楽監督をつとめたりドラマに出演したり活躍の場が広がっており、今まで以上に応援したい気持ちになりました。

レミオロメンの「モラトリアム」が鳴り響いた!

ところで、RADWIMPSの話題ではなくて大変恐縮ですが、私は「小説 天気の子」を読んで、レミオロメンの「モラトリアム」という曲が頭に鳴り響きました。

歌詞や世界観がぴったりじゃないですか……!?

おそらく「小説 天気の子」の1つのテーマが「モラトリアム」なんだと思います。

モラトリアムとは、比喩的に社会人となるべき自信がなく大学の卒業などを先延ばしにしている状態のこと。

大人になりきれない微妙な心の葛藤を描いたこの2つの作品は、共通する部分が多いです。

BGMを自由に楽しめることも小説ならではですね……!

まとめ

新海誠さんの「小説 天気の子」は、思春期の少年と少女の葛藤を描いたSF恋愛小説です。

映画と小説は同じストーリーですが表現のされ方が根本的に違うため、一味違った新海誠ワールドを味わうことができます。

社会問題や若者の文化が投影されており、文学的というよりは娯楽的な堅苦しくない文章で描かれた、良くも悪くも「イマドキ」な作品という印象です。

そのような理由からも対象年齢は低めですが、何を言っているのかわかりにくい抽象的な作品が多くある中、非常にわかりやすいメッセージが心地よい印象を受けました。

映画では詳細に表せない心の動きと、小説では表現できないアニメーションや音楽。
両方の世界観が合わさることで本領発揮する作品です。

映画を観た方は小説を読むとまた違った発見がありますよ。

ぜひ両方お楽しみください!