有川浩の「阪急電車」は人生の機微を味わえるほっこり胸キュンストーリー!

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「どんな人にもおすすめできる小説は何だろう?」
そう考えた時に思い浮かんだ本が、有川浩さんの「阪急電車」です。

当作品は「阪急電車 片道15分の奇跡」というタイトルで映画化もされ、80スクリーンと小規模ながら興行収入11億円以上を記録し、ヒット作となりました。

ちなみにキャストは中谷美紀、戸田恵梨香、宮本信子、芦田愛菜、相武紗季など、かなり豪華!

小説から映画化された作品はイマイチ……なこともありますが、「阪急電車」の映画は小説に負けないくらい面白いです。

もちろん原作も素晴らしく私の好きな本のひとつですが、ことさら読みやすいため普段本をあまり読まない方にもオススメ!

さらに、映像では表現しきれない“登場人物の心の動き”が本では読み取れるため、映画を観たことがあってストーリーを知っている方ならば、より深く楽しめます。

「阪急電車」は、たまたま乗り合わせた電車の中で交差する人間関係や、心と心のふれあいを描くほっこり胸キュンストーリー。

「いい本読んだなぁ」という気持ちにさせてくれる、年齢・性別を問わず、みんなにおすすめしたい作品です。

今回はそんな「阪急電車」のブックレビューをお届けします。

あらすじ

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「阪急電車」は主人公が章ごとに次々と変わる連作短編集です。

短編集でありながら、それぞれの章で起きた出来事が他の章にも深く関与しており、まるでバトンリレーを見ているかのよう。

テンポよく、軽やかに物語が進んでいきます。

この物語の舞台はタイトルの通り阪急電車。その中でもあまり知名度の高くない今津線が主役。
阪急今津線は宝塚駅から西宮北口を結ぶ片道15分ほどの路線です。

エンジ色の車体にレトロな内装が特徴的な“かわいい電車”が走ります。

まず目を引くのがその目次。

章ごとのタイトルは「宝塚駅」から始まる駅名となっており、「宝塚南口駅」「逆瀬川駅」「小林駅」と路線図通りに続いていきます。

神戸線へと連結する「西宮北口駅」までいくと折り返しとなり、「宝塚駅」までの道を再び戻ります。

この往復16駅で生まれる偶然の出会い。
そして、「日常」とも言い換えられそうな小さな奇跡の数々。

甘酸っぱい恋の始まりや、苦い別れの兆しといった、表面だけでは知ることのできない微妙なおもむきや人間関係……、つまり人生の機微をふんだんに味わえます。

甘酸っぱい青春から、壮絶な愛憎劇まで、様々な人間模様が描かれる

最初に登場する正志(まさし)は、図書館でよく見かける女性と偶然電車で隣り合わせます。

彼女は自分のことを知りませんが、正志は図書館で彼女が手に取る本を眺めては「本の趣味が合いそうだ」と一方的に気にかけていました。

気になるけど、なかなか声を掛けられない……。

電車で隣り合わせたことを歯がゆく感じつつも、意識しすぎるのも気が引ける微妙な距離。

そんな時、彼女は急に正志の方に体をひねって電車の窓を大きく振り返ります。
何事かと釣られて窓を見る正志。そこで、彼女は正志に声を掛けてきて……。

こんな風に「青春っていいな!」と思わせるエピソードから始まったかと思えば、次の章では婚約者を寝取られて破局した翔子(しょうこ)が、その婚約者の結婚式に白いドレスを着て討ち入りにいく話となり、度肝を抜かれます。

それぞれの章に主役がいてドラマがあるのですが、次の章ではその主役はエキストラにまわり、また別のドラマがあって……。

たまたま乗り合わせた「電車」という運命共同体の中で、心と心のふれあい小さな奇跡を描く、人情味溢れる傑作小説です。

書評

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私は有川浩さんの本が大好きですが、その中でも「阪急電車」はオススメの作品です。

とにかく読み口が軽いため、本が苦手な方にも手にとりやすく、有川作品の導入としても最適。

人によっては軽すぎて物足りなさを感じてしまうかもしれませんが、それほど「読みやすい」という観点ではピカイチです。

連作短編集という書かれ方がここまでマッチする作品も珍しく、交差するストーリーが読者を飽きさせず、一気に読んでしまいます。

本を読むことは釣りに似ています。

退屈な本を読むことは結構つらくて、ページが進まず頭にも入ってこなくて眠くなる……。
本が好きな私でも、そうなることがよくあります。

自分に合わない本は読み進めることすらつらいですよね。
しかし、本は実際に読んでみないと自分に合うかどうか、面白いかどうかはわかりません。

それでも、面白い本に巡りあうためにどんな退屈な時間も乗り越え、ようやく当たりの本に出会えたときは読む手が止められなくなるほど没頭してしまいます。

そのように、良い本に巡りあう為に退屈な本でも読み続け、時間だけが過ぎていくのをもろともしない点が、まるで釣れる保証がなくても魚を釣る一瞬の喜びのために竿を振り続けることを厭わない釣りと似ていると私は考えています。

さて、本を読むことを釣りと例えるならば、有川浩さんの本はさながら「釣り堀」。

何もない海に糸を垂らすのとは異なり、釣り堀ならば釣れることが前提です。
同様に、有川浩さんの作品はどれを読んでもハズレがなく、退屈で読み進めることができないといった心配はいりません。

たとえ読み終わった時に「イマイチだったな」と思った人でも、「阪急電車」はスイスイと読むことができたはず。

読みやすい本というのは、実はそれだけでとても凄いことで、それは有川作品の醍醐味でもあります。

「いい本を読んだな」とほっこりする

「阪急電車」を読んで一番感じたことは「いい本を読んだな」という安心感です。
読み終わった時に優しい気持ちが胸いっぱいに広がり、みんなにオススメしたくなります。

たまたま乗り合わせただけの電車の中で起きるドラマ。
そのひとつひとつが面白く描かれていますが、全体の雰囲気はほのぼのとした感じ

この「ほのぼの感」が味であり、有川浩さんが書く物語の魅力です。

女性作家ならではの「乙女心」の表現力が新鮮!

有川作品の特徴に「乙女心」を感じることが挙げられます。

代表作の「図書館戦争」をはじめ、「植物図鑑」「レインツリーの国」などにも共通して言えるこの乙女心は「阪急電車」にも健在です。

有川浩さんは女性作家なので当然かもしれませんが、「女性から見た青春はこんな感じなのかな」と、こっそり少女漫画を読んだような気持ちにもなります。

この「女性(乙女)らしさ」の表現の仕方に心の機微を感じます。

男性脳にはない女性ならではの“心の動き”が垣間見れて面白いです。

阪急電車に乗ってみたくなる豊かな情景描写

何と言ってもこの本を読むと、阪急電車に乗りたくなることが最大の魅力です!

有川浩さんは今津線沿線に実際に住んでいたこともあり、住民ならでは駅の特徴をしっかりと把握し、物語に反映させています。

ツバメが飛び交う「小林駅」の人情味溢れる風景を実際に見てみたい!
武庫川(むこがわ)の鉄橋から中洲を覗いてみたい!

いつか「阪急電車」の文庫本を片手にフィールドワークに出掛けてしまいそうです。

読書家で有名な児玉清さんが解説を執筆!

「阪急電車」の解説は今は亡き児玉清さんが執筆しています。

児玉清さんと言えば「アタック25」の名司会者であり俳優ですが、実は読書家としても知られ多くのエッセイや書評も執筆する経歴の持ち主。

この解説がとっても良くて、本に対する想いが伝わる名解説となっています。

普段「解説まで読まない」という方も、ぜひ「阪急電車」の解説に書かれた“児玉清さんの熱い想い”を読んでみてください。
文章のうまさに驚かされますよ。

「アタック25」のテンポの良い司会がそのまま本の中で生きています。

こんな楽しそうに解説(書評)が書けるなんて、本当に読書が好きだったんだなとしみじみさせられます。

まとめ

有川浩さんの「阪急電車」は読みやすく、優しい気持ちになれる作品です。

「たまには本でも読んでみよう! でもあまり難しい話は嫌だな」なんて考えている方に最適です。

私が有川浩さんの書く物語が好きなのは、読むことに気兼ねなく、安心して物語に没頭できるからです。
有川作品にハマってしまうとサクサクと読めてしまうので、読書量が半端なく増えますよ。

また、冒頭にも書きましたが、「阪急電車」は映画もとてもおすすめです。

原作とは若干異なる部分もありますが概ね内容は同じなので、休みの日にDVDをレンタルしてきても楽しめます。

本も映画も、人生の機微を味わえる、ほっこり胸キュンストーリーです。

人生に迷ったとき、人との付き合いに疲れたとき、大切な人との別れを意識したとき。
そんな頭がいっぱいでため息をついてしまうようなときは、サクサクと読める「阪急電車」がオススメです。

読み終わったとき、きっと心が軽くなっているはずですよ。