伊坂幸太郎の「残り全部バケーション」は伏線回収が痛快な裏稼業コンビの物語!

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今回紹介する本は、コミカルな会話と伏線回収が痛快な伊坂幸太郎さんの「残り全部バケーション」です。

この作品を読んで、伊坂さんは読者の期待を裏切らないと改めて認識させられました。

家族団欒の席で「実はお父さん、浮気をしていました」という1文から始まるこの作品は、物語がどのように転がっていくのか全く想像ができず、期待を膨らませてくれます。

物語の最初の1行だけで「面白い本に違いない!」と思わせる作品が他にどのくらいあるでしょうか。

今回は、伊坂ワールド炸裂の連作短編集「残り全部バケーション」のブックレビューをお届けします。

裏稼業コンビが織りなす裏切りと友情の物語

「残り全部バケーション」は、あくどい仕事で生計を立てる溝口と岡田が活躍する5章からなる連作短編集。

2人はある組織から独立を果たし、コンビとなって「当たり屋」や「脅迫」を生業として生活していました。

そんなある日、岡田は先輩である溝口に「この世界から足を洗いたい」と相談をします。

それを聞いた溝口は激昂しますが、「ある条件をクリアすることができたら認める」と無理難題を押し付けます。

その条件とは、適当に選んだ携帯番号に「友達になろうよ」とメールを送り友達を作ること。

そんな怪しいメッセージに返事をもらえる訳がないと半ば諦めながら送ったメールは、浮気がバレて別居が決まった離婚寸前の男に届きます。

男は暮らしていたマンションを引っ越し、家族と最後の団欒を過ごしていた時にメールを受け取りました。

こうして、岡田は解散間近の家族と共にドライブをすることに……。

行き当たりばったりの溝口と心優しい一面を持つ岡田の裏稼業コンビが織りなす、裏切りと友情の物語です。

「タキオン作戦」の伏線回収方法が傑作!

2章目の「タキオン作戦」の伏線回収の仕方がとにかく痛快で最高でした!

偶然出会った少年は父親から虐待を受けており、岡田はその父親の暴力をいかにして辞めさせるか頭を捻らせます。

そこで考え出された「タキオン作戦」は、タイムマシンを作って父親に復讐をして未来を変えるというもの。

この意味不明な作戦を様々な伏線を張り巡らせて回収していくことによって実現していきます。

物語の大半が伏線で、それを隠そうともせず、当たり前のように回収していく様は傑作で、読みながら笑ってしまうほど……!

伏線回収の新しい形ここにありな作品です。

読み終わると爽快で清々しい気分になれますよ。

魅力的なキャラクターとコミカルな会話が際立つ!

「残り全部バケーション」は、時間軸や章を飛び越えて伏線を回収していく連絡短編集です。

ジャンルは何なのかと考えると難しいのですが、コミカルなノワール(犯罪小説)といったところ。
ちなみにコミカルとノワールの割合は8:2くらいで笑える要素が強いです。

伊坂さんの著書には「殺し屋」や「ギャング」が頻繁に登場しますが、この作品も“あくどい仕事”で生計を立てる溝口と岡田の裏稼業コンビが登場します。

この2人のキャラクターが魅力的で、とにかく会話が面白い!

伊坂さんらしいシャレの効いたセリフの往来は、まるで漫才を見ているかのようです。

溝口と岡田の2人組は悪いことをして働いているのに何故か憎めません。

2人の言動は全てにおいてユーモアの方が勝るため、「怖い」と感じる前に笑ってしまうんですよね。

伊坂さんはやっぱりセンスありすぎです……!

ジェットコースターのような面白さ!

この作品の魅力は、物語が一体どこに向かっていくのか全く想像ができないまま加速して転がっていき、不規則に進んでいるように見えながら1つに繋がっていくところです。

そして最後にたどり着いた結末に、誰もが思わず笑ってしまうはず。

心を鷲掴みにされるように引き込まれて、あっという間に読み終わってしまうジェットコースターのような作品です。

私は読む手が止められなくて、通勤中に歩きながら読んでしまったほど!笑

「当たり屋」「不倫」「脅迫」「闇取引」といったアウトローなワードを、ここまでユーモラスに小気味よく描けるのは天才としか言いようがありません。

魅力的なキャラクターと小気味の良い会話。
幾重にも張り巡らされた伏線の回収と壮大なオチ。

まさに伊坂さんらしい作品と言える内容で、読んでいて「さすがだな」と思わせます。

従来からのファンだけでなく、伊坂さんの本を初めて手に取る方にもオススメの1冊です!

ちなみに、以前紹介した「バイバイ、ブラックバード」も伊坂さんらしい作品で、魅力的なキャラクターが大暴れしてとっても笑えます。

sutekinayokan.hatenablog.com

こちらも伊坂ワールドを存分に楽しむことができますよ。

まとめ

「残り全部バケーション」は、魅力的なキャラクターが面白おかしく会話を進め、張り巡らされた伏線を見事に回収していく伊坂ワールド爆発の作品です。

まるでジェットコースターのようなアトラクションを楽しんでいるようで、予想もつかない展開に最後の1ページまでドキドキが止まらず、あっという間に読み終えてしまいました。

伊坂さんらしい小気味の良い会話と愛すべきキャラクターが読者の期待を裏切りません。

気持ちよく笑える、気分転換に持ってこいの作品です!