思わず笑ってしまう伊坂幸太郎のエンタメ小説「バイバイ、ブラックバード」

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本を読むのが苦手な方にこそおすすめしたい小説があります。

それは、伊坂幸太郎さんの「バイバイ、ブラックバード」です。

おかしくて思わずニヤニヤしてしまうこと間違いなしのエンターテイメント小説で、伊坂幸太郎さんの本を1冊でも読んだことがある方には「伊坂ワールド爆発!」と言えば大体納得していただけると思います。

伊坂幸太郎さんの作品は独特な雰囲気があって、表現や言い回しが面白く、思わず笑ってしまったり、時にはハッとさせられたり! 

特徴的なキャラクターが登場し綺麗に伏線を回収していくさまは、まるで映画を観ているかのようで読者を飽きさせません。

読み進めるごとに「この作家は天才だな」と思わせる、今一番注目されている売れっ子作家の一人です。

著書は映画化された作品も多く、たとえば堺雅人主演の「ゴールデンスランバー」、加瀬亮・岡田将生主演の「重力ピエロ」、多部未華子・森山未來主演の「フィッシュ・ストーリー」など、伊坂作品とは知らずに観たことがある方も多いのではないでしょうか!? 

ちなみに、本作もWOWOWにてドラマ化されています。

伊坂幸太郎さんの原作は本当に面白く、映画や漫画を楽しむような感覚で物語に没頭できます。

今回は、「バイバイ、ブラックバード」のブックレビューです。

あらすじ

「バイバイ、ブラックバード」は6章からなる連作短編集です。

連作短編集というのは、章ごとにストーリーが独立した短編集でありながら、それぞれの章が繋がりを持った作品を指します。

主人公は星野という独身の青年で、鈍感で飄々としていて、イケメンではありませんが特徴的な顔立ちで女性からは割とモテます。

しかし、その鈍感さが災いして莫大な借金を抱え、謎の組織の監視下に置かれることに……。

〈あのバス〉で連れて行かれるまでの間、監視役の繭美(まゆみ)と行動を共にすることになります。

この監視役の繭美は、身長は190センチ、体重は200キロという破格に大きい体を持ち、肌は白く、さらにブロンド髪を持つハーフという訳のわからない風貌をしたキャラクターです。

繭美は常に辞書を持ち歩き、自分の信念にない言葉はサインペンで黒く塗りつぶして消しています。

たとえば、繭美の辞書には「色気」はないし、「常識」「気遣い」「マナー」もありません。

何から何まで規格外で、態度も大きく、傍若無人で、口も性格も悪いモンスターのような女性です。

そんな繭美に24時間監視されている星野は、〈あのバス〉が来てドナドナよろしく連れて行かれるまでの間に「何人かの女性に会わせて欲しい」と頼みます。

その何人かの女性というのは、星野が現在進行形で付き合っている5人の恋人です。

星野はなんと5股をかけており、その恋人たちに自分がいなくなる前に別れを告げたいというのです。

「面白そう」という理由で組織からの許しを得ることができ、星野と繭美は5人の恋人を訪ねて回ります。

自分が〈あのバス〉に乗っていなくなってしまうことを隠すために、「繭美と結婚する」という嘘をつき、5人の恋人たちに別れ話をして回るという異様な物語が始まります。

恋人たちとの別れを、奇妙でどこかおかしく描くそんな本作は、あらすじ内で「グッド・バイ」ストーリーと表現されています。

「バイバイ、ブラックバード」は、星野と繭美、そして5人の恋人たちが織りなすなんとも不思議な数週間を、思わず笑ってしまう表現で描かれたエンターテイメント小説です。

書評

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「とにかく面白い!」それが「バイバイ、ブラックバード」を読んだ感想です。

異様なキャラクター達が異様な展開で突き進んでいきますが、物語に振り回されながらも読む手を止めることができません。

〈あのバス〉とは一体なんなのか!? 繭美は何者なのか!? 星野を監視下におく組織とは一体……!?

こんなに訳のわからない展開なのに熱中して読んでしまうパワーがこの小説にはあります。

「バイバイ、ブラックバード」という猛獣が読者の首根っこをガブリと咥え、物語の世界に引きずり込んでいくような錯覚さえ覚えます。

読んでいて思わず笑ってしまうんですよ。たとえば星野は繭美のことをこう表現しています。

僕には、彼女が別の生き物にしか見えなかった。霊長類までは一緒であっても、その後の科が違うのではないか、と会って数日で感じ始めたが、今となって、同じ星の生き物とすら思えなくなっていた。

星野の淡々とした解説もこの本の魅力の1つ!
星野自体はかなり深刻な状況を生きているはずなのに、いい意味で深刻さが全く感じられません。

伊坂作品に共通して言えますが、登場人物のキャラクター設定が秀逸で、魅力に溢れているのです。

その筆頭が、この物語の重要な位置付けにいる繭美というキャラクター。

私の中では繭美の脳内変換はマツコ・デラックスですが、作中ではプロレス界の名悪役アブドーラ・ザ・ブッチャーにそっくりだと例えられた、気球に手足が生えたような体格の女性です。

ちなみに、本作は2017年にドラマ化されましたが、繭美役のキャストは身長190センチのイケメン俳優城田優が演じています。男じゃん!笑

繭美は、自分のことを「ハーフだ」という割には日本語しか話せず、そもそも日本人と外国人のハーフなのか、人間と別の生き物とのハーフなのかもわかりません。

彼女が動くと世界が歪みます。人を傷つける言葉を平気で吐き、人が絶望することを喜び、誰に対してもぞんざいな態度で接します。

本来こんな傍若無人な人間がいたら不快なはずですが、それさえも魅力に感じてしまうのが不思議なところ。

それどころかラストシーンでは「繭美が品行方正な美人じゃなくて良かった!」と、納得までさせられてしまいます!

伊坂幸太郎さん凄い!

「小説ってこんなに面白かったんだ!」と気付かせてくれる!

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私が「バイバイ、ブラックバード」を読んで1番伝えたいことは、「小説はこんなにも面白い!」ということです。
普段本を読まない人にぜひ読んで欲しい小説です。

堅苦しいことは一切ありません。漫画を読むような感覚で楽しめます。

伊坂幸太郎さんの作品は、複雑に伏線が絡み合って最後に見事に回収されていくパターンが多いですが、「バイバイ、ブラックバード」は単純でとにかく読みやすいことが特徴です。

逆に、他の伊坂作品のようにもっと濃密で複雑な伏線が張られ、それらをきれいに回収していくようなストーリーを求める読者には物足りないかもしれません。

「バイバイ、ブラックバード」には伝えたいメッセージ性や納得できる結論がありません。
もしかしたらあるのかもしれませんが、私には感じられませんでした。

活字からキャラクターの姿を想像し、さらに声や雰囲気を想像する。
星野はこの物語が終わったらどうなるのか、〈あのバス〉は一体どこに向かうのかとまた想像する。

本を読むことは想像すること。そして、その想像を楽しむことです。

メッセージ性や納得のいく結論なんていらない! ただ面白ければいい!

そんな風に思わせてくれる小説は意外と少なく、まさに「エンターテイメント」という言葉がぴったりだと感服させられました! 笑えることが全てです!

「バイバイ、ブラックバード」は究極のエンターテイメント小説で、純粋に本を読むことを楽しめる作品です。

そういった意味で、もっとも伊坂幸太郎らしい作品であり、もっとも伊坂幸太郎らしくない作品でもあると思います。

笑いだけじゃなく、ハッとさせられる!

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「バイバイ、ブラックバード」は思わず笑ってしまうエンターテイメント小説であると語ってきましたが、そんな中にもハッとさせられるシーンが出てきます。

たとえば5章のラストシーンは、複雑ではありませんが伏線もしっかりと張られていて、「今までこれだけ笑わせておいて、最後はこんな展開だなんてどれだけニクいんだ!」と思わずにはいられません。

伊坂幸太郎さんの作品の特徴でもある伏線の回収の美しさ。
登場人物にはわからず、読者にだけ真相がわかるユニークな書かれ方。

ただ笑えるだけの小説ではなく、そういった小粋な文章もちゃんと味わえるのが「バイバイ、ブラックバード」です。

コミカルでキテレツな展開の中に、不意にハッとさせられる表現が入り込んでくると、奥行きがぐっと増してより際立ちます。

バラエティ番組とアクション映画とシリアスなドラマを一緒に観ているような気持ちにもなりますが、不思議と一体となりそれぞれが引き立てあって共存しています。

うーん、やっぱり伊坂幸太郎さん凄い!

太宰治の「グッド・バイ」

実は、「バイバイ、ブラックバード」は太宰治の未完の作品「グッド・バイ」のオマージュ作品です。

「グッド・バイ」は何人もの女性と同時に付き合っていた田島が美女であるキヌ子を携えて別れ話にいくというストーリーです。

「バイバイ、ブラックバード」はこの設定を踏襲しています。名前も「キヌ(絹)子」と「繭美」だから文字ってますよね。

ちなみに、太宰治の「グッド・バイ」は著作権フリーの作品が読める青空文庫にて無料で読むことができます。

太宰治 グッド・バイ

「バイバイ、ブラックバード」は、昔の文豪が残した未完の作品を、現代の人気作家が完結させるという観点でも非常に面白く読める作品です。

まとめ

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「バイバイ、ブラックバード」はとにかく面白い作品です。

「本を読むことに理由なんていらない、ただ面白ければいい」と感じさせてくれる小説は貴重です。

実はこの本、我が家に2冊あります。1冊は私のもの。もう1冊は妻のもの。お互い独身時代に買いました。

まだ付き合う前の話です。

妻「何か面白い本ありませんか?」

私「面白い本……。この前読んだバイバイ、ブラックバードは面白かったですよ」

妻「私も最近読みました! すごく面白かったです!」

こんな会話から話が弾んで私は妻と親しくなりました。思い出に残っている本はいつまでも色褪せないですよね。

面白い本は人と人を繋ぎます。ぜひ皆さんも読んでみてください! 思いっきり笑えますよ!