金城一紀の「対話篇」は心に残る切なくも希望に満ちた物語!

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今回紹介する本は、金城一紀さんの3話からなる中編集「対話篇」です。

金城一紀さんといえば、本多孝好さんの大学時代の同級生であり、先日紹介したメディア化前提作品「dele(ディーリー)」のプロデュース及び脚本を担当した作家さん。

著書の「ゾンビーズシリーズ」で小説現代新人賞を受賞し、その後に発表した半自伝小説「GO(ゴー)」では直木賞に輝きました。

そんな映えある受賞歴を持つ作品の中で、私は「対話篇」がもっとも好きな作品です。

特に3話目の「花」は感動的で、読み終わった時にしみじみとした満足感が得られます。

今回は「いい本を読んだな」という気持ちにさせてくれる金城一紀さんの心に残る名作「対話篇」のブックレビューをお届けします。

切なくも希望に満ちたストーリー

「対話篇」は「恋愛小説」「永遠の円環(えんかん)」「花」の3話からなる中編集ですが、ところどころ登場人物やキーワードがリンクしています。

そのため、それぞれのストーリーは全く異なりますが、1冊の本としてまとまり感があり読み応えがある作品です。

3話に共通するのは、「大切な人とは会い続けなくてはいけない」という強いメッセージ。

愛する人を失い孤独に沈む者たちが語る“真実の言葉たち”が胸に残る物語です。

それぞれのあらすじを紹介します。

「恋愛小説」は“死神”と呼ばれた男が語る切ない恋の物語

谷村教授の「刑法」の試験を終えて教室から出た僕は、大学で最も影が薄く「透明人間」と呼ばれていたクラスメイトと偶然鉢合わせます。

今まで話をすることは滅多にありませんでしたが、試験を終えた開放感から誰かと喋りたい気持ちに駆られた僕は、誘われるまま彼の家に行きしばらく会話をすることに。

そこで語られた彼の半生は壮絶なものでした。

彼は幼い頃から「死神」と呼ばれ、親族や友人から恐れられ不幸を呼び寄せる運命に翻弄されながら生きてきました。

両親を亡くしただけでなく、引き取ってくれた親族や、親交のあった友人はすべて不慮の事故で亡くなっていきます。

やがて心を閉ざした彼は平穏な生活を送るため、誰にも干渉せずにひっそりと暮らすように……。

そんな中、階段から転落したところを助けたことがきっかけとなり彼女と出会い、たまたま僕が試験前に貸したノートで縁がつながり、生まれて初めての恋に落ちていきます。

「死神」と呼ばれ、数奇な運命を生きた彼の最初で最後の運命の恋。

切なく純粋な恋愛小説です。

「永遠の円環」は片思いの残酷な結末を描いたミステリー

末期ガンになり闘病生活を送る僕は、いよいよ抗がん剤での治療を打ち切られ、個室で「死」というゴールへ向かって最後の直線をひた走ることに。

しかし、ゴールラインを駆け抜ける前に、僕にはやるべきことがありました。

それは大学の谷村教授を殺すこと。

谷村教授は僕が想いを寄せていた先輩の死に大きく関わっていながら、世間に知られることなくのうのうと生きていました。

個室に移ってまもなく計画を実行すべく、僕は点滴の管を腕から抜き、病室から抜け出しましたが、階段で意識を失い複雑骨折をして身動きが取れなくなります。

そこで、大学の友人に片っ端から連絡を取り、協力者を探していたところにKが現れました。

Kとは試験前にノートを貸し借りする程度の関係であまり親しくはなく、殺人の手助けを頼めるような間柄ではありませんでしたが、僕には残された時間がなくKに協力を要請します。

そこで語られる殺人の動機を聞いてKが下す決断とは……。

運命に縛られながらも抗い続ける姿を描いた哀しいミステリー小説です。

ゾンビーズシリーズ第3弾「SPEED」との関連性も

「永遠の円環」はゾンビーズシリーズ第3巻の「SPEED」ストーリーがリンクしています。

ここでもまた谷村教授が登場しますが、想いを寄せていた先輩の死の真相も判明するため気になる方はぜひ読んでみてください。

ゾンビーズシリーズは明るく爽快な4巻からなるシリーズものですが、ストーリーが独立しているので1巻から読まなくても楽しめます。

「花」は忘れてしまった記憶を巡る感動のストーリー

仕事中にめまいに襲われ意識を失った僕は、脳外科での検査の結果、先天的に持って生まれた動脈瘤がいつ破裂してもおかしくない状況であることを知ります。

手術を受けるにも危険が伴い後遺症で記憶を失う可能性も。

絶望した僕は会社を辞め実家に戻り、手術を受ける決心もできないまま半年を過ごしました。

そんなある日、時間を持て余しているという噂を聞いた先輩からアルバイトの話を持ちかけられます。

アルバイトとは、先輩の知り合いの弁護士を東京から鹿児島まで一般道を使い車で連れていくというもの。

何故そのような旅をするのか興味を持った僕はそのアルバイトを引き受け、依頼人である弁護士の鳥越氏と出会います。

鳥越氏は学生時代の友人である谷村から紹介されて出会った女性と恋に落ち結婚をしますが、すれ違い28年前に離婚することに……。
しかし別れてからも彼女のことを深く愛していました。

東京から鹿児島までの道のりの中で語られる鳥越氏と愛する人との思い出の数々。

薄れゆく愛しい人の記憶を辿る、切なくも希望に満ちた感動のストーリーです。

1冊の本としての構成が素晴らしい!

「対話篇」は1冊の本としての構成が素晴らしく、3話を読み終えた時に満足感が得られる作品です。

特に3話目の「花」は良い作品で、読み終わると優しく温かい気持ちに満たされ、思わず涙が溢れます。

「この話だけでも読む価値がある」とはじめ思いましたが、やはり1話目と2話目の絶望感があってこそ映える3話目です。

「対話篇」は全体的に静かで悲しい物語で構成されているにも関わらず、1冊を読み終わった後の感想を一言で表すと「希望」という言葉が思い浮かびます。

この印象を決定付けているのが3話目の「花」。

3話がそれぞれ別々の話なのに登場人物などに関連性を持たせていることからも意図的に構成されており、「花」が最後の3話目にあることで1冊の本として「希望」に満ちたストーリーに仕上がっています。

「花」は、車で東京から鹿児島まで2人で旅をするロードムービーのような作品ですが、車の中で語られる真摯な会話はまさに「対話篇」と言える内容です。

社会に出たばかりの主人公の僕と還暦間近の鳥越氏の間に、立場や年齢を超えて「友情」が芽生え、いつしかその思いは本物の「親子愛」のように感じられます。

大切な人を亡くした者が、自分の死を前にして本心にたどり着き、世界の素晴らしさに気付いていく……。

温かさが胸に沁みる「いい本を読んだ」と感じさせてくれる名作です。

金城ワールドに引き込まれる!

「対話篇」はとても静かで哀しく切なさが胸に沁みる作品です。

金城さんの作品は、明るくて爽快感があって読み終わったらスカッとするような作風が多いのですが、「対話篇」は全く逆の雰囲気。

いつもの明るさをイメージするとギャップを感じるかもしれませんが、私はこの作品にこそ金城さんの本領を感じます。

悲しみや憎しみは世界に溢れており、運命に翻弄されて絶望するかそれを覆して希望を見出すのかは人それぞれ。

金城さんの作品は「世界は素晴らしいから笑い飛ばせ」ということがわかりやすく爽快に描かれているのですが、「対話篇」もアプローチの仕方は違えど根本的には同じメッセージを感じます。

爽快で笑える話も好きですが、心理描写を深く読み解きながら読書を楽しむのもやっぱり面白い!

金城さん特有の明るくて爽快な話を期待して読んだ人でも、更に深い金城ワールドに引き込まれること間違いなしです

探していた“答え”を見つけることができた数少ない作品

私は悩み事があるときはいつも本を読んできました。

本の中に“答え”があるような気がして、何冊も本を読んでは答えを探す日々。

「対話篇」に出会ったのは東日本大震災があった年で、沢山の本を読み漁っていた時期だったことを覚えています。

その年は友人を3ヶ月間で3人亡くし、私も体調を崩して10日間くらい入院し、当時付き合っていた彼女も腫瘍ができて手術をするという私の人生の暗黒時代。

そんな中「対話篇」を読んだとき、登場人物がとても身近に感じました。

特に「恋愛小説」に登場する“死神”と呼ばれる彼に私は共感を覚え、「この人は私のことなのではないか?」と思ったほどです。

運命に翻弄される絶望的な姿に共感し、運命を受け入れながらも覆していく強さに勇気付けられ、そして最後に希望を感じることができるこの本にとても癒されました。

「対話篇」は、本の中で答えを見つけることができた数少ない作品で、今でも私の心に残る1冊です。

まとめ

「対話篇」は切なさの中に優しさや温かさを感じる中編集。

金城一紀さんらしい痛快で明るい話ではありませんが、静かで哀しい物語の中に希望を見つけることができます。

私は金城さんの著書をほぼ全て読んでいますが(SPだけ読んだことがありません)、中でも「対話篇」が1番好きな作品。

明るい話が多い他の作品と比べるとアプローチの仕方が異色ではありますが、この本にこそ金城さんの本領を感じます。

初めて読んでから7年くらい経ちますが、印象深く記憶に残っている名作です。