タイムスリップした青年が“未来の名曲”で音楽史を塗り替える!?五十嵐貴久の「1981年のスワンソング」

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久しぶりに読む前からワクワクする本に出会いました。

タイトルは五十嵐貴久さんの「1981年のスワンソング」。

2014年の現代社会から1981年の昭和モノクロ時代にタイムスリップしてしまった主人公が、未来に生まれた名曲をバンバン大ヒットさせてしまう物語です。

コミカルでサブカル要素満載なあらすじを見ただけでもう面白そう!

実際にレコードやCDを買い集めていた昭和世代には楽しめること間違いなしの作品です。

バブル前夜の1981年に「世界に一つだけの花」「TSUNAMI」は受け入れられるのか!?

今回は、ありそうでなかったタイムスリップエンターテイメント小説「1981年のスワンソング」のブックレビューをお届けします。

背に腹はかえられず名曲をプロデュース!

主人公の松尾俊介(まつおしゅんすけ)は2014年に生きる29歳のサラリーマン。

学生時代にバンドを組んでギターに明け暮れていたこともあり、弾き語りはお手の物。

文化祭で準ベストギタリスト賞をもらったこともあり、何度か聴いたことのある曲なら譜面を見ずに弾けるくらいの腕前の持ち主です。

しかし、ミュージシャンになりたいと考えたことはなく音楽はあくまで趣味の延長。
社会に出てからは家電屋に勤め、平凡な暮らしを送っていました。

そんなある日、手ぶらでコンビニへ買い物に向かった帰り道に突然1981年にタイムスリップしてしまいます。

自分が生まれる前の昭和56年にいきなり放り出された松尾は途方に暮れ、落ち着ける場所を求めて代々木公園に辿り着き、そこで寝泊りをすることに。

代々木公園では、大学生の若者2人組がギターを片手に路上ライブを行なっていました。

ひょんな事から学生2人と親しくなり、誘われるがままに松尾も路上ライブに加わり、平成のヒット曲を歌い日銭を稼ぐ生活をすることに。

そこに現れたのはレコード会社で楽曲をプロデュースする敏腕ディレクター。

松尾は天才作詞作曲家としてスカウトされ、音楽制作の現場で働くことになります。

昭和の時代に平成の名曲で音楽史を塗り替えていくコミカルなエンタメ小説です。

ありそうでなかったエンターテイメント小説!

「1981年のスワンソング」は、タイムスリップというかなりSF的な現象が起きたにも関わらず、主人公がやることは日銭を稼ぐために“未来の名曲”をバンバン世に送り出し大ヒットさせてしまうというバカバカしい物語。

この今までありそうでなかった設定が最高です!

439ページもある結構分厚い長編小説ですが、あっという間に読んでしまいました。

文章が堅苦しくなく、誰もが知っている名曲がたくさん出てくるので親しみやすく、名曲揃いのカップリング曲やアルバムの選曲を見るだけで笑えます。

一方、主人公にはあまり華がありません。

「歴史を変えてしまっていいのだろうか……?」という葛藤の中、「まぁいいや」となんの情熱もなく曲を提供していく姿は主体性がなく、読んでいて好き嫌いが分かれそうなキャラクターです。

この主人公のキャラクターを受け入れられるかどうかでこの本の印象はガラッと変わりそうですね。

私は“何も考えずに読める本”も好きなジャンルなので、楽しく読むことができました。

何も考えずに読める本の素晴らしさ!

本はテレビや映画などに比べて受け身の要素が少ないため、手軽な媒体ではありません。
本を読むのは結構大変です。

活字を目で追って人物を想像しながら頭の中で物語を再生していくため疲れますし、面白いかどうかは読んでみないとわかりません。

実際に私は今までに1,000冊以上の本を読んできましたが、自分の好きな本に出会う確率は1〜2割くらいです。
自分に合わない本を読むのは時間がかかるし苦痛ですよね。

そんな中、何も考えずに気軽に読める本は貴重です。

「旅をしたい」という感覚に似ていますが、ただ単に物語に没頭して現実を忘れたい時があります。

今まで読んだことがない作家の長編小説は普通身構えてしまうものですが、「1981年のスワンソング」はそのハードルがとても低く感じました。

この本の帯には「歴史、変えちゃってすみませんっ!」と書かれているのですが、ゆるさが伝わってくる秀逸なキャッチコピーです。

「過去に行った青年が未来の曲で音楽史を塗り替える」というキャッチーな設定は、手軽そうで興味も惹かれ読んでみようと思わせます。

「1981年のスワンソング」は、このエンタメ小説らしさが魅力でその期待を裏切りません。

選曲についての賛否両論

物語で扱われる楽曲の選曲については人によって思い入れが違う為、「そうじゃないだろう」という人がいるかもしれません。

著者もあとがきで「1番頭を悩ませたところなのでご理解ください」と泣きを入れています笑。

この部分に関しては人によって捉え方が違うので気にする必要はないと私は思います。

私にとって感銘を受けた名曲が、他の人にはなんの思い入れもないただの曲であったりするわけです。

主人公の松尾は「世界に一つだけの花」「さすらい」「LOVEマシーン」など世代を超えた名曲を次々にプロデュースしていきます。

どんな曲が登場するのか予想しながら読んでみても楽しいですよ。

「カップリングでこの名曲を入れてしまうのか!?」と度肝を抜かれるところがあり、個人的にはとても楽しめました。

40代、50代にオススメ!

「1981年のスワンソング」はタイトルの通り、物語の舞台が1981年のため、私より年上の40〜50代の世代にオススメできる作品です。

内容は軽快なエンタメ小説でラノベっぽさもあり若者向けですが、音楽はiPodでしか聞いたことがない世代よりも、レコードやカセットテープを使ったことがある昭和世代の方が当時を懐かしむことができて楽しめるはず。

1983年生まれの35歳の私は、今とは全く異なるCDが何百万枚も売れた時代を知っていますが、この物語の舞台背景にはギリギリついていける程度です。

「映画館や飛行機の中でもタバコが吸えた」なんて聞いてもただ驚くばかりで「昔はそうだったな」とは思えません。

そのため、この作品を本当に楽しめるのは、当時の情景を実際に見て知っている40代、50代の世代ではないでしょうか。

実は私もこの作品は、会社の50代の上司から勧められて読みました。

私は上司と仲が良く本を貸し借りする間柄なのですが、本は世代を超えて繋がることができるのも良い点の1つですね。

「1981年のスワンソング」は、読みやすく幅広い年代に受け入れられますが、特に40代、50代の世代にオススメの作品です。

まとめ

「1981年のスワンソング」はタイムスリップした青年が“未来の名曲”をバンバン大ヒットさせてしまう掟破りなエンタメ小説。

物語の設定が面白く読みやすい文章のため、気軽に読むことができます。

主人公に華がなく主体性がないことに物足りなさを感じますが、何も考えずに小説を楽しみたい時に読む本としては打って付け!

物語で扱われる選曲や主人公のキャラクター性には賛否両論ありそうですが、私はとても楽しく読むことができました。

1981年という時代背景から40代、50代の世代にオススメしたい作品です。