今回ご紹介する本は、石持浅海さんの「Rのつく月には気をつけよう」です。
タイトルだけ見ると「?」が浮かびますが、1話目を読み始めると謎はすぐに解けるのでご安心を。
もし、「Rのつく月」と見ただけで「酒の肴にぴったりなカキの話だな」と、ピンときたグルメな方は、この本を楽しんで頂けること間違いなし!
当作品は、美味しいお酒と肴を楽しみながら恋愛話の謎を解く小粋なミステリー小説で、読んでいると思わずお酒を飲みたくなります。
私も本と同じくらいお酒が趣味という事もあって、大好きな作品です!
ほろ酔い気分で読書を楽しめる「Rのつく月には気をつけよう」のブックレビューをお届けします。
あらすじ
「Rのつく月には気をつけよう」は、ひとつの部屋だけで物語が進む密室劇のようなスタイルの連作短編集です。
7章からなる短編集ですが、章をまたいで登場するのは大学の頃からの呑み仲間である夏美(なつみ)と長江(ながえ)と熊井(くまい)の3人。
その3人に加えて、毎回誰かが連れてくるゲストを交えた計4人で囲む宴会の席は、いつも長江が住む独身一人暮らしのワンルームマンションで行われます。
食品会社に勤めグルメにも詳しい熊井が酒を調達し、頭脳明晰で気の利く長江が酒の肴を用意する。
誰もが想像するホームパーティーや家飲みとは趣が違い、飲み会で楽しむのは基本的に1酒1品のみ。
例えば、「アイラモルト×生牡蠣」「ブランデー×そば粉のパンケーキ」「日本酒×銀杏」といったように、その都度最高の組み合わせの酒と肴を楽しみながら、ゲストとの話に花を咲かせます。
酔いもまわり口も軽くなったところで盛り上がるのは、なんと言っても恋愛話。
ゲストの何気ない日常会話や恋愛トークの中にミステリーが隠れています。
牡蠣を食べるならRのつく月に
12ヶ月を英文で表記すると、9月(September)から翌年の4月(April)までの綴りにRがつきます。
「牡蠣を食べるならRのつく月にしろ」というのは、牡蠣はそんな涼しい時期に食べるのが安全だという先人の知恵です。
運悪く、「4月に先輩社員の家で食べた生牡蠣に当たった」という思い出を語るゲストの一重(かずえ)は、そのトラウマを克服するために生牡蠣が主役の飲み会に参加します。
生牡蠣に合わせるのはアイラ島のスモーキーなシングルモルトスコッチウイスキーである「ボウモア12年」。
スコッチは産地によって味わいがかなり異なり、アイラ島で作られるシングルモルトは独特な磯の香りが特徴的なウイスキーです。
ボウモアはアイラの中でも飲みやすく生牡蠣との相性も抜群。
そんな生牡蠣とボウモアを楽しみながら、一重が牡蠣に当たった経緯を聞く3人。
ちゃんと牡蠣を食べるのに適したRのつく月だったのに、当たって大変な思いをしたという話。
何気ない話で終わったかのように見えたその時、「悪魔が裸足で逃げ出すほどの頭脳を持つ」と言われる長江が一重の嘘を見破ります。
「先輩社員の家で生牡蠣に当たった」という話は、思いもよらない方向に転がり、その裏側には複雑な人間関係と内なる想いが隠されていました。
いつもの仲間が集まって楽しむ、美味しいお酒と美味しい肴。
そして、ゲストが語る日常生活の中に隠れたミステリー。
「Rのつく月には気をつけよう」は、“グルメ”と“謎解き”が絶妙なバランスで融合した、小粋なミステリー小説です。
書評
まずはじめに言っておきたいのは、「Rのつく月には気をつけよう」はとてもオススメの本であるということです。
特にお酒が好きな方は楽しめること間違いなし。
私は読み終わったとき、むしろ読み始めてすぐに類稀なる傑作小説だと確信しました。
実は、手に入れてから1年くらい経ってから読んだ本でした。
本棚で忘れたまま放置してしまい、たまたま手に取ったとき装丁がとても素敵で慌てて読み始めたことを今でも覚えています。
「もっと早く読んでおけば良かった!」と後悔したのは言うまでもありません。
内容は日常の飲み会の風景なのに、ちゃんとしたミステリーで驚愕させられる展開の連続です。
著者は2005年刊行の「扉は閉ざされたまま」で「このミステリーがすごい!」の第2位に選出された経歴を持ち、推理作家協会賞の候補にもなるなど注目のミステリー作家の1人。
当作品がグルメ小説でありながら、ちゃんとしたミステリー小説と言えるのも納得です。
魅力的なキャラクターと会話の面白さ!
飲み会での恋愛話は日常の出来事で、普通の人なら謎があったことにすら気づかず通り過ぎてしまいそうなところ、頭脳明晰な長江のキャラクターが光ります。
ゲストの話を聞き、謎から真相に気づき一人だけ納得した様子の長江。それが気にくわない熊井。
この2人のやり取りがまた面白い。
「ちょっと揚子江(ようすこう)」
熊井が沈黙を破った。気に入らないことがあるとき、熊井は長江のことを揚子江(ようすこう)と呼ぶ。
「どういうこと?」
このやり取りが何回も出てくるのですが、最後の方は癖になってしまいました。
ご存知の通り、中国にある世界第3位の長さを誇る川「長江(ちょうこう)」の最下流部の異称が「揚子江(ようすこう)」です。
旧友を揚子江と呼び捨てるふてぶてしい熊井のキャラクターも魅力的で惹かれます。
主人公なのに一見影が薄い夏美は二人の引き立て役かと思いきや、一升瓶を一気飲みできるほどの酒豪であり、飲み会の席には欠かせない存在です。
3人の仲の良さが伝わってくる宴会に、アクセントをつけるゲストの恋愛話。
身内で開かれる飲み会らしい脱力感が心地よく、思わずニヤニヤしてしまう面白さです。
お酒と肴の最高の組み合わせ
長江と熊井がセレクトするお酒と肴のセンスが非常に良くて、真似をしたくなります。
こんな組み合わせを思いつく著者の石持浅海さんは、きっとのんべえに違いありません!
第1話の「ボウモア12年×生牡蠣」は、聞いただけでも絶対に合うと確信できます。最高ですね。
気になって検索してみたところ、実際にアイラ島では生牡蠣にボウモアをかけて食べるのが名物とのこと。そりゃうまいだろうなぁ……。
第2話の「ビール×チキンラーメンそのまま」は、実際にやったことがあります!
チキンラーメンの麺はお湯で延ばしてスープにするための味付けなので、そのまま食べるには濃すぎます。
それがかえってビールのつまみにはいいのです。癖になりそう。
第3話の「オレゴン産のシャルドネ白ワイン×チーズフォンデュ」は、冬になったらいつかやりたいと密かに計画しています。
ドライ過ぎずどっしりしているオレゴン産のシャルドネと、濃厚なチーズフォンデュの組み合わせ。
オレゴンは赤ワイン用のぶどう品種ピノ・ノワールの産地としても有名ですが、チーズフォンデュの材料には白ワインが入るので、ここは白ワインで合わせたいところ。だからこそのシャルドネ。
こんな風に「その組み合わせ最高だな!」と、思わず唸らせるグルメセンスがこの本にはあるのです。
お酒好きにはたまらない
「Rのつく月には気をつけよう」は、お酒好きにはたまらない小説です。
好きなお酒がたくさん出てくるため、ニヤニヤが止まりません。
ポールジローは私が大好きなブランデーですが、小説に出てくるだけで嬉しくて興奮してしまいました。
ぶどうの味が濃厚なポールジローの素晴らしさを、友人と語り合っているかのような気分です。
また、知らないお酒が出てくると飲みたくなってしまいますね。
例えば、マリリンモンローが愛した、カンヌ映画祭の公式シャンパーニュとしても知られるパイパー・エドシック。
私はこの本を読むまで飲んだことがありませんでしたが、読んだ次の日には買ってきてしまいました!笑
ヨドバシカメラで4,000円くらい! 意外と安い!
お手頃なシャンパンといえばモエ・エ・シャンドンが有名ですが、パイパー・エドシックを手土産で持って行ったらちょっと通な感じがしますよね。
このように、「Rのつく月には気をつけよう」は、お酒がたくさん登場しその飲み方を紹介してくれるため、お酒に詳しい方だけでなく、お酒が好きで飲み方をもっと知りたいという方にこそオススメしたい小説です。
小粋なミステリー
「お酒×グルメ×ミステリー」という3つのカテゴリーからなるこの小説。
こんなミステリーは今までありませんでした。
今までお酒とグルメの組み合わせが秀逸だと語ってきましたが、それだけでなく、宴会の席での会話だけで成り立たせる驚異の謎解きは舌を巻くほどです。
毎回違うゲストから語られるストーリーは面白く、「まさかこの話からこんな結末が?」と読者の意表をつく展開が、しっかりとミステリー小説を読んだ気持ちにさせてくれます。
推理を展開する長江は、気の利く心優しい人柄です。
ちゃんとしたミステリー小説だと言いましたが、人は誰も死にません。
そして、推理によって真実が明らかになっても誰も傷つきません。
ミステリーだけどニヤリと笑えて、優しく前向きにもなれる、今までにない小粋な小説です。
まとめ
「Rのつく月には気をつけよう」はお酒を飲みながら読みたくなる作品です。
いい意味で脱力感があり、堅苦しくなく読むことができます。
連作短編集なので1話完結で読めるのも、お酒を飲みながらというシチュエーションに向いています。
お酒が好きな方には特にオススメなので、少しでも気になったら迷わず手にとってみてください!
もし良かったらコメントをお待ちしております!
「Rのつく月には気をつけよう」の感想はもちろん、お酒についてのコメントも大歓迎です!
何を隠そう私はお酒が大好きで、家にウイスキーのボトルを70本くらい所有しているほど……。
他にも今後感想記事を読みたい作品のリクエストなど、どしどしお寄せください!!