知念実希人の「レフトハンド・ブラザーフッド」は兄弟の絆を描く疾走感溢れる長編ミステリー!

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今回紹介する作品は知念実希人さんの疾走感溢れる長編ミステリー「レフトハンド・ブラザーフッド」です。

双子の弟の左手に亡くなった兄が宿り、殺人事件の冤罪を晴らす為に2人で真犯人を捜し求める奇妙な逃避行を描いたこの作品は、“兄弟の絆”が鍵となり探偵役は左手の兄という斬新さ!

今まで見たことのないこの物語は、ミステリーとしてだけでなく、サスペンス青春小説としても楽しめます。

450ページを超えるなかなか分厚い長編ですが、のめり込んでは続きが気になり、あっという間に読んでしまいました!

疾走感が心地よく、どんでん返しのラストは切なくも爽快で救われる作品です。

今回は、知念実希人さんの「レフトハンド・ブラザーフッド」のブックレビューをお届けします。

左手に宿る“兄”と一心同体で繰り広げる奇妙な逃避行

ある事故がきっかけで亡くなった双子の兄・海斗(かいと)の声が左手から聞こえるようになった高校生の弟・岳士(たけし)。

左手に宿った海斗は左肩までを自由に動かす支配権を持ち、岳士とのみ会話をすることが可能です。

「左手に兄がいる」と訴える岳士は重度の精神疾患の疑いで強制的に入院を迫られ、病院から逃れる為に家出をして東京を目指します。

その道中、殺人事件に巻き込まれ、容疑者として警察から追われるはめに……。

濡れ衣を晴らすため真犯人を捜し求める岳士と海斗ですが、事件に関わる怪しいドラッグ「サファイア」の密売ルートへの深入りと、謎の美女・彩夏(あやか)との出会いにより“兄弟”の思惑はすれ違い始めます。

左手に宿った“兄”の本当の目的とは何なのか?
そして彩夏との運命の恋の行く末は……?

読み進めるごとにのめり込む、疾走感溢れる長編ミステリー小説です。

ミステリー小説として斬新な設定と伏線回収

「レフトハンド・ブラザーフッド」は、容疑者として逃げ回る主人公の左手に宿った“兄”が探偵役を演じます。
そして、物語の語り部として探偵の推理を助けるワトソン役は弟の役目。

この作品は、兄弟2人がまさに一心同体となって奔走する新感覚のミステリー小説です。

物語が進んでいくと更にその関係は複雑化していき斬新さに拍車がかかっていくことに……。

掟破りの展開かと思いきや筋はしっかりと通っており、最後に待ち受けるどんでん返しは切なくも爽快で救いを感じます。

濃密な恋愛要素があったり、ドラッグが出てきたりと型破りな展開ではありますが、ミステリー小説として楽しく読むことができました。

ハラハラドキドキさせられるサスペンス的な面白さ!

「レフトハンド・ブラザーフッド」のもう1つの顔は、ハラハラドキドキさせられるサスペンス的な面白さです。

殺人事件に巻き込まれ警察から逃げながら真犯人を捜し求める2人は、怪しいドラッグ「サファイア」に辿り着きます。

「サファイア」を巡る裏稼業の組織との駆け引きや、ドラッグの禁断症状、警察からの逃亡劇など次々と襲いかかるピンチにハラハラの連続です。

ドラッグやチンピラ集団が出てくるノワール(犯罪小説)の要素があるので、人によっては好き嫌いが分かれるかもしれません。

ちなみに、私はノワールは好きではありませんがこの作品は楽しく読むことができました!

一部に過激な描写が含まれますが、それほど重苦しい雰囲気にはならず、あくまで読みやすさが重視されています。

“兄”と“弟”の名コンビが送る青春小説!

主人公である双子の兄弟は対照的な性格で、お互いにないものをそれぞれ持っています。

頭脳明晰でまわりからも期待されるクレバーな兄の海斗と、出来の良い兄にコンプレックスを抱きながらも何でも言いなりに行動してしまう弟の岳士。

兄が左手に宿ってからもその関係は変わらず、海斗の的確な判断に従って岳士は窮地をくぐり抜けていきます。

一方、岳士はボクシングのインターハイでミドル級3位の実力者です。
めちゃくちゃ強い岳士の活躍も物語の重要な要素の1つで、兄にできない弟の強みも描かれています。

時には軽口を叩いたり兄弟喧嘩をしたり反発しあう2人ですが、協力してピンチを切り抜けていく格闘シーンは痛快です!

「レフトハンド・ブラザーフッド」は、ミステリーとして、サスペンスとして、そして青春小説としての3つの面白さを持っています。

知念実希人さんのアイディア溢れる作品が好き!

私は今まで知念さんの作品を5〜6冊読んできましたが、本格ミステリーや医療サスペンスもあればハートフルミステリーもあって、どの作品も読後感が良かった印象があります。

1番最初に読んだ「仮面病棟」という医療サスペンスの本格ミステリー小説では、奇抜な設定と閉鎖空間で繰り広げられる心理戦が巧妙で手に汗握り、意表をつくラストに驚愕しました。

病院にピエロのお面をかぶった強盗犯が籠城し、自らが撃った女の治療を要求するところから物語が始まり、ラストは怒涛のどんでん返しで締めくくる作品です。

とんでもない設定ですが、さすが医師でもある知念さんが描く医療サスペンスはリアリティがあって、かなり面白い作品でした!

また、「優しい死神の飼い方」という作品は、犬の姿を借りた死神が人間と交流し魂を正しく導くハートフルミステリーです。

犬となった天然キャラの死神が、死に直面する人間を未練から救う為に奮闘する姿が微笑ましい心温まるいい本でした!

知念さんの作品は、少し変わった設定が物語のアクセントになっていて、記憶に残る感動を与えてくれます。

そして今回の「レフトハンド・ブラザーフッド」は、亡くなった双子の兄が弟の左手に宿るという誰も見たことのないミステリーで、さすがアイディア満載の知念さんらしい作品です。

今までにない設定や複合的な要素もあって、常に斬新な知念さんの作品の中でも新しい試みであったと感じました。

ちょっとした辞書のように分厚い見た目をしていますが、読み始めると続きが気になってあっという間に読んでしまいます。

読みやすく疾走感のある作品の為、何も考えずに読書に没頭したい時にオススメです。

まとめ

「レフトハンド・ブラザーフッド」は、ミステリーとしてだけでなく、サスペンス青春小説としても魅力に溢れた作品です。

亡くなった双子の兄が弟の左手に宿り、殺人容疑の濡れ衣を晴らす為に2人で力を合わせて紛争する奇妙な逃避行が描かれます。

次々と押し寄せるピンチを乗り越え走り抜けていくストーリに目が離せず、のめり込んであっという間に読んでしまいました。

そして、最後に待ち受けるどんでん返しは切なくも爽快で救われます。

誰も見たことのない“兄弟の絆”を描いた疾走感溢れる長編ミステリーです。