今回紹介する作品は原田ひ香(はらだひか)さんの「ランチ酒」です。
日課の本屋巡りをしていたところ、新刊コーナーになにやら美味しそうな装丁の本を見つけました。
イラストに惹かれて手にとってみると、どうやら「ランチ酒」という作品の新刊のよう。
私は「食事」や「お酒」がキーワードの小説が大好物のため内容が気になり、1巻を探して購入したのがこの本との出会いです。
面白かったら続編の新刊も買おうと心に決めて読んでみたところ、すぐに本屋に走ることになりました!
今回は、哀愁漂う人間ドラマのグルメ小説、原田ひ香さんの「ランチ酒」のブックレビューをお届けします。
疲れた心にじーんと沁みる絶品グルメ小説!
バツイチ、アラサーの犬森祥子(いぬもりしょうこ)の職業は「見守り屋」。
訳ありの客から依頼が入ると、人やペットを一晩寝ずに見守ります。
そんな祥子の唯一の贅沢は、夜勤明けの帰宅途中に楽しむランチとお酒。
街で出会った美味しい料理とうまい酒に、夜勤明けの疲れを吹き飛ばします。
お酒を飲みながら思いを巡らすのは、別れた夫のもとで暮らす愛する娘のこと。
娘となかなか会うことができない祥子は、なんとも言えない孤独を抱えて過ごしています。
それでも、へこたれてなんていられない……!
たとえどんなに寂しくても、食べて、飲んで、生きていく!
哀愁漂う人間ドラマの絶品グルメ小説です。
とにかく美味しそうでお店に行ってみたくなる!
「ランチ酒」に登場する料理とお酒は本当に美味しそうで、読んでいると思わず食べたくなります。
ステーキとサングリア、ハンバーガーとビール、オムライスと日本酒……。
なんでもない日常のランチのはずなのに、よだれが出るほどに描写がうまい。
それは、控えめに言っても最高です!
夜勤明けの疲れた体へのご褒美として美味しい料理とうまい酒を堪能する姿を見ると、明日への活力をおすそ分けしてもらった気分に……!
祥子の食べっぷりはとにかく美味しそうで、実在するお店ならば是非とも足を運んでみたくなります。
おそらくモデルとなるお店が実在する!
「ランチ酒」では、新宿や武蔵小山、秋葉原など、仕事で訪れた土地で巡り合ったお店が登場します。
店名は一切出てきませんが、おそらくモデルとなるお店があるような……?
たとえば、新宿のルミネエストの地下1階の片隅にある小さな立ち飲みカフェは間違いなく「ベルク」のことですし、丸の内のKITTEにある回転寿司屋は行列必須の大繁盛店「根室花まる」のことだと特定できます。
「ベルク」が出てきた時はなんだか嬉しくなってしまい、思わずツイッターでつぶやいてしまいました。
「ランチ酒」に新宿のベルクが出てきた!なんだか嬉しい!
— ユウ@ホンダナ!運営中 (@sutekinayokan) July 18, 2019
知っているお店が出てくると「そうそう……! その通り!」と共感できる点が非常に面白いです。
そして、祥子が太鼓判を押すお店はなぜか信憑性があって、他の土地のお店も探してみたくなります。
ということで、勢いに任せて1巻に出てくる全章の実在店舗を調べ上げました!
「ランチ酒の実在店舗まとめ」はこちら記事をご参照ください。
ただのグルメ小説ではなく、哀愁漂う人間ドラマが描かれる!
「ランチ酒」は、お酒を飲んでご飯を食べるだけの小説ではありません。
“見守り屋”という少し変わった仕事をして働く祥子と、その顧客が抱える“疲れ”と“孤独”が絶妙な距離感で描かれます。
子供に会いたくてもなかなか会えない祥子は、不器用で独り思い悩んでいました。
しかし、ワケありな客たちと過ごす時間が徐々に彼女を変えていきます。
人とのつながりを思い返しながら、夜勤明けに1人で楽しむ晩酌ならぬ「ランチ酒」。
疲れた心にじーんと沁み渡ります。
1巻だけでの物足りなさを「おかわり日和」でしっかりとカバー!
「ランチ酒」の1巻は280ページの中に16章もあります。
つまり1章が20ページ未満なのでサクサクと読めますが、少し物足りなさを感じてしまうことも……!
それが晩酌とは一線を画する“ランチ酒”の所以(ゆえん)なのかもしれませんが、ビールを1杯だけ飲んで終わりだとやっぱり少し寂しさを感じます。
しかし、2巻の「おかわり日和」になると300ページの中身は10章となり、1章のボリュームがだいぶ増えました。
さらに、「見守り屋」の顧客も重複して登場し、1巻では味わえなかった人間ドラマがより深く描かれます。
この1巻と2巻のバランスが非常にいい……!
サラリとしすぎていた1巻を読むと「もうちょっと深い話が読みたい!」と感じるのですが、その思いにジャストフィットするのが2巻の「おかわり日和」です。
グルメ小説だけではなく、哀愁漂う人間ドラマが味わえます。
“お酒”や“食事”がキーワードの作品が好き!
私は“お酒”や“食事”がキーワードとなっている小説にひときわ思い入れがあります。
なぜなら、人間が生きていく上でこの2つは避けては通れないものだからです。
食事をしないと生きていけませんし、お酒は古くから神聖な儀式にも使われるほど人間の生活に密着したものでした。
「辛い出来事があっても美味しいご飯とお酒があれば大丈夫!」
そう思わせてくれる小説が私は好きです。
“お酒”と“食事”といえば石持浅海さんの「Rのつく月には気をつけよう」
今回、「ランチ酒」を読んで、石持浅海さんの「Rのつく月に気をつけよう」という小説が思い浮かびました。
「Rのつく月には気をつけよう」は、お酒好きにはたまらない傑作日常ミステリー小説です。
(後から気付いたのですが、2冊は同じ出版社でした)
「ランチ酒」を気に入った方がいましたら、私が大好きなこちらの作品もオススメします!
まとめ
「ランチ酒」は、お酒と食事が美味しそうすぎて思わず食べたくなる絶品グルメ小説です。
しかし、ただお酒を飲んでご飯を食べるだけの小説ではありません。
バツイチ、アラサーの犬森祥子が、「見守り屋」という職業で出会う人々との交流によって、だんだんと変わり癒されていく人間ドラマが描かれます。
祥子の頑張りと食べっぷりを見ていると、まるで明日への活力をおすそ分けしてもらったかのような気分に……!
悲しくても、寂しくても、やっぱりお酒とごはんは美味しい!
今日も最高のランチに癒されます。