この本のPOINT!
人間が抱える“激情”について狂おしいほど綿密に描かれる!
他のミステリーとは一線を画する神秘的でおごそかな読後感!
物語を読んで最後に胸に残るのは、希望を感じる“スポットライトの光”!
今回紹介する作品は、芦沢央(あしざわよう)さんの「カインは言わなかった」です。
芸術を追い求め、すべてを懸けた男の孤独と希望を綿密に描いたこの作品。
表現者が芸術を極めようとする静寂で狂気的な欲望は、戸惑うほどに読者を魅了します。
嫉妬、恐れ、恨みそして希望。
様々な感情が渦を巻き、通常のミステリーとは一線を画した神秘的な感動をもたらします。
己の限界を突破したいと願う者たちの情熱と渇望を描いた、長編ミステリー小説です。
- 芸術にすべてを懸けた男の孤独と希望を描く慟哭のミステリー!
- ミステリーを読んだとは思えないおごそかな読後感!
- 人間が抱える“激情”にスポットが当てられる!
- 著者“芦沢央”のモンスター作家としての片鱗を見た!
- まとめ
芸術にすべてを懸けた男の孤独と希望を描く慟哭のミステリー!
「世界のホンダ」と讃えられるバレエ界のカリスマ芸術監督・誉田規一(ほんだきいち)が率いる「HH(ダブルエイチ)カンパニー」。
その新作公演の主役に抜擢された藤谷誠(ふじたにまこと)は、誉田による壮絶なしごきに喰らい付き、すべてを舞台に捧げてきました。
しかし、誠は初日公演の3日前に突然姿を消します。
幼い頃からバレエに身を捧げ、憧れの劇団で勝ち取った主役の座を放棄して彼は一体どこに消えたのか。
真相は何も語られないまま、主役の座をかけたオーディションが急遽催されます。
一方、HHカンパニーのスタジオ内で不慮の事故により娘を失った過去を持つ松浦夫妻は、その過失を一切問われなかった誉田に積年の恨みを抱いていました。
亡くなった娘が主役を務めるはずだった公演は、娘の死によって話題を呼び、皮肉なことに誉田の名を世の中に知らしめることになったのです。
日頃から誉田の言動を監視していた松浦夫妻は、HHカンパニーで再び起こる異変に気付きます。
様々な思いが交錯し、激情は狂気となり破裂して、失われる命……。
芸術にすべてを懸けた男の孤独と希望を描いた、慟哭のミステリー小説です。
ミステリーを読んだとは思えないおごそかな読後感!
この作品を読んで、こんなにも気持ちを引き締められるとは考えてもいませんでした。
ミステリーを読んだとは思えない神秘的でおごそかな読後感です。
この作品のモデルが旧約聖書の「カインとアベル」である点も去ることながら、一貫して語られる異常なまでの執念と、最後に魅せられる強力な光がそうさせるのでしょう。
絶望の中でも途切れずに細々と繋がっていた線が、周りを取り込んで一気に拡大していく様に息を飲み、心を鷲掴みにされました。
芸術という答えのない世界の中で、自分は何を信じ、どのように表現していくのか。
表現者が芸術に賭けるとめどない想いと、それを追い求めた先にある希望が描かた作品です。
人間が抱える“激情”にスポットが当てられる!
この作品の1つの重要なテーマは、人間が抱えるとどめがたいほど激しく強い感情や欲望、つまり“激情”です。
嫉妬や執着、愛憎などのどうにも抑えられない想いが、兄弟や恋人、師弟といった様々な関係の中で形を変えながら描かれます。
激情は人を狂わせ、凡庸な人間には理解できない全く新しい価値観を生み出すものです。
冒頭で起きる殺人シーンでは、激情に流された犯人が抱く想いが“絶望”なのか“安堵”なのかすら判断ができません。
また、芸術を追い求めていく上では人間の死ですら大した問題にならず、重要なのはあくまで表現することなのです。
この作品では、人間が抱える激情について狂おしいほど綿密に描かれています。
著者“芦沢央”のモンスター作家としての片鱗を見た!
「カインは言わなかった」を読んで、著者の芦沢央さんは一体どんな方なのか気になり調べたところ、なんと私と同じ36歳とのこと!
この事実には非常に驚かされました!
こんなにも重厚でおごそかな物語を、まさか私と同じ年齢の方が書けるなんて……!
しかも、文学賞への応募を続けながら出版社勤務を経て、小説家デビューを果たす根性の持ち主です。
ふと思い出したのは、同じような境遇で働きながら執筆を続け作家になった辻村深月さん。
辻村深月直木賞受賞。やはりモンスター作家だったな。
— ユウ@ホンダナ!運営中 (@sutekinayokan) July 17, 2012
彼女が直木賞を受賞した時も「やはりモンスター作家だったな」と思いましたが、芦沢央さんもいつか大きな賞を取ると感じさせるほど感慨深い作品でした。
モンスター作家としての片鱗を見た気持ちです。
まとめ
「カインは言わなかった」は、芸術にすべてを捧げた男の情熱と渇望を描いた長編ミステリーです。
ミステリーを読んだ後とは思えない重厚でおごそかな読後感が味わえます。
狂気を感じるほどの激情を目の当たりにしますが、読み終えて胸に残るのは“希望”という言葉。
それはまるでスポットライトの強い光を当てられたようです。
決して前向きで明るい話ではないにも関わらず、この結論を表現できる物語に感動を覚えます。
今後語り継がれていくこと間違いなしの名作です。