【ネタバレ】本多孝好の「真夜中の五分前」の考察を徹底解説!

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今回の記事では、前回投稿した「真夜中の五分前」の考察をネタバレ前提で徹底解説します。

この作品は恋愛小説ですがミステリー要素が強く、真相が読者に委ねられ漠然とした終わり方をするのも特徴のひとつ。

私はなんとも悲劇的な「side-B」が受け入れられずに長い間モヤモヤとしていました。

今回は、そのモヤモヤ解消のため、私の考察を徹底的に解説します!

ネタバレ前提であらすじを解説しますので、この本を読むつもりの方はこれ以上読み進めるのをお控えください。

本多孝好さんの喜劇と悲劇を描いた恋愛小説「真夜中の五分前」のネタバレ徹底解説をお届けします。

前回の書評記事はこちらからどうぞ!

sutekinayokan.hatenablog.com

あらすじ(ネタバレ)

「side-A」では、主人公の僕とかすみがだんだんと惹かれあい結ばれるまでを描きます。

主人公は学生時代に事故で失った恋人の習慣であった“五分遅れの目覚まし時計”を今でも使い続け、その五分ぶん世の中とズレているようでした。

誰と付き合っても体の関係は持たず、その代わりにただ安らぎだけを求め、たくさんの恋人を作っては別れるを繰り返す日々。

そんなある日、市営プールで美しく泳ぐかすみと出会います。

かすみは一卵性双生児の妹であるゆかりの婚約者である尾崎に一目惚れをしてしまい、妹を殺してでも愛する人を手に入れたいと切望しましたが、自分の心を殺し運命に抵抗して生きる道を選びます。

双子の2人は今まで全く泳げませんでしたが、かすみは妹と違う人生を模索し、特訓を繰り返し人並み以上に泳げるようになったところ、主人公と出会いました。

かすみは自分のタイプとは程遠い主人公と徐々に親密になっていきます。
妹が決して選ばない人であることが、かすみにとっては重要でした。

しかし、きっかけこそ「ゆかりが選ばない人だから」と歪んでいたものの、次第に2人はお互いに欠落したものを埋めるように求めあっていきます。

心から愛し合い、恋人として結ばれるまでが「side-A」のあらすじです。

かすみが事故で亡くなり、急展開するストーリー

「side-B」では、ゆかりの結婚をきっかけに姉妹旅行で向かったスペインで列車事故にあい、かすみは亡くなります。

生き残ったゆかりも全身にひどい怪我を負い、治療で髪も切られていました。

ゆかりは事故のショックからか支離滅裂でかすみとゆかりの視点が入り混じっていましたが、無事に一命を取り止め、尾崎との新婚生活に戻ります。

しかし、いつしか何気ない会話の違和感から尾崎は「彼女は本当にゆかりなのか?」と疑問を持つように……。

今一緒に暮らしている女性は、本当はかすみで、ゆかりを演じているのではないか? 
事故に遭い、最初に自分が「ゆかり」と呼んだから、それに応えたのでは?

2人を見分けるのは至難の技で、それこそ髪型くらいでしか見分けがつかず、かすみが細心の注意を払い全身全霊で尾崎を騙そうとしたら、それは不可能なこととは思えませんでした。

その疑問を解消できず彼女を信じられなくなった尾崎はついに離婚を決意します。

ゆかりは事故後2人の記憶が入り混じり、自分でも“ゆかり”なのか“かすみ”なのかわからなくなっていました。

尾崎と別れたゆかりは「今度はあなたが私に名前をつけて」と僕に迫ります。

僕は「かすみが生き返る」誘惑に駆られながらもゆかりに別れを告げ、物語は幕を閉じます。

生き残ったのは“かすみ”なのか“ゆかり”なのか?

この物語では生き残ったのは“かすみ”なのか“ゆかり”なのか明言されませんが、私は生き残ったのは“かすみ”であったと思います。

なぜなら、主人公と尾崎の両方を愛していたのは“かすみ”だけだからです。

一卵性双生児の2人はお互いの好みが一緒で実際にかすみはゆかりの婚約者に一目惚れをしたほどでした。

しかし、主人公に対してはそうではありません。

2人で過ごした時間が愛を育んでいったため、一緒に過ごしていないゆかりは主人公のことはタイプでもなければ、愛情も芽生えないはず。

そもそもかすみは自分の運命に抵抗して主人公を選んだ経緯もあるので、ゆかりにとっては主人公を愛する理由が全くありません。

かすみは自分の時間を止めて心を殺し、ゆかりは事故で身体を亡くす。

そうやって2人は一緒になってしまったのではないかと思います。

五分ズレた時間が生んだ悲劇

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かすみがゆかりに成り代わっていたとすると、かすみは主人公との生活を捨てて、尾崎との結婚生活を選んだことになります。

これは「とてもひどいのでは?」と思うかもしれませんが、それは主人公もおあいこです。

主人公はかすみと付き合い愛し合っていながらも、五分遅れの目覚まし時計の針を進めませんでした。

かすみを愛していても、同じ時間を歩む勇気が持てなかったのでしょうか。

その致命的なズレを主人公は気付きもしませんが、かすみは敏感に感じ取っていました。

かすみは家から駅までの道のりをいつも送ってくれる主人公のことをゆかりに話した際に「それほど2人の時間が惜しいのね」とからかわれましたが、それを否定し「ただ紳士なだけ」だと答えていました。

そこには寂しさが入り混じったかすみの本心が伺えます。

かすみは自分を殺して、ゆかりを生き返らせた

事故にあう前日にかすみは高熱を出し、夢でお告げを聞きます。

翌日になると高熱は嘘のように消え、かすみの希望で予定を変更してタクシーを走らせ、名も知らぬ町の教会へ行くことに。

そこでかすみは夢でのお告げに従ってロザリオを盗みます。

ロザリオを盗んだ理由をゆかりが尋ねると「五分だけ時間を止められる気がして、再び動き出した時間の中で主人公に会いたかった」と話します。

この五分ズレた2人の関係で「教会に行きロザリオを盗めば時間を止めることができ、望むものが手に入る」というお告げを聞いたとしたら、かすみの行動は納得のいくものです。

主人公のことを心から求めていたかすみが実際に得たものは、妹のゆかりの死と、ゆかりに成り替わることができる今までずっと望んでいた道でした。

その時かすみは自分の時間を止め、望んでいたものを手に入れたのではないでしょうか。

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愛おしい幕切れに、時計の針は廻る

主人公は学生時代に恋人を失ったことによって、かすみは尾崎への想いを断ち切るために自分の心を殺したことによって、変わらぬものとしてあり続けるものや、時間に対する敬意を失ってしまいます。

自分を否定することでしか時間の流れに身を任せられない2人は、お互いを必要とし、確かに愛し合っていました。

愛する人をまたもや事故で失い、五分遅れの世界から抜け出せずにいた主人公は、その後の出会いや別れを通じて「今流れている時間」や「過ぎていった時間」に敬意を持つように変わっていきます。

一方、かすみはそれを否定し続け、実体のないものに身を委ねてきました。

ゆかりが尾崎と別れた後、主人公はゆかりを「かすみ」と名付けてよりを戻さなかったのは、今まで確かにそこにあったものを愛おしく感じたからです。

かりそめの愛ではなく時間を経て育んだ「かすみを愛していた」という想いを疑いたくない。

そんな愛おしさから毎晩真夜中に訪れる五分間は、世の中とズレた時間を埋めて、愛した人を想う時間に変わっていきます。

この物語の主人公は人間味が全くありませんでしたが、物語の最後でようやく泣くことができ、救われました。

恋愛小説としてはひどい結末を迎えますが、愛について考えさせてくれる作品で、読んで良かったと私は思います。

まとめ

「真夜中の五分前」は、恋愛小説でありながらミステリー要素が強く、甘さよりも苦味を感じる作品です。

一卵性双生児の双子の姉妹が事故にあい片方が亡くなってしまいますが、どちらが生き残ったのかは明言されておらず、謎めいたラストを飾ります。

私は主人公の恋人であったかすみが生き残ったと読み解きましたが、解釈の仕方は人それぞれで、読み方によっては後味の悪いだけの物語かもしれません。

15年くらい前に初めて読んだ時、私はまさにそう思ってしまいました。

しかし、深く読み解いていくと愛について考えさせられ、救いを感じます。

私の中では非常に印象に残っており、本多孝好さんの作品の中でもオススメの作品です。

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