辻村深月の「凍りのくじら」は私の1番好きな本!

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「1番好きな本はなに?」と聞かれたらとても悩みますが、私は辻村深月(つじむらみづき)の「凍りのくじら」だと答えます。

理由はただ1つ、今まで読んだ本でいちばん心に響いたからです。

辻村深月さんが直木賞を受賞した2012年に、私はツイッターにこんなつぶやきをしていました。

何年も前から好きだったんだなぁとしみじみ。
2012年の時点で既におすすめしていましたが、その気持ちは今でも変わらない筋金入りの「凍りのくじら」ファンです!

この作品は決して万人ウケする小説ではありません。

主人公である理帆子(りほこ)は、進学校に通う女子高生でありながら飲み会に参加して夜遊びしたり、別れた彼氏と曖昧な関係を続けたりしています。

「いまどきの女子高生って飲み会に参加することに違和感がないの?」といったように内容が少し若向きなところがあって、前半は登場人物にも全く共感できず読みにくいと感じるかもしれません。

この本と出会った当時27歳だった私も、読み始めたときは微妙かなと思ってしまいました。

それでも、読み終わった私の心にグサッと突き刺さった本。それが「凍りのくじら」です。

今回は「凍りのくじら」のブックレビューをお届けします。

あらすじ

「凍りのくじら」は家族や好きな人とのつながりを描いた10章からなる長編小説です。
576ページとかなりのボリュームがあり、文庫本でも結構な分厚さがあります。

 主人公である高校生の理帆子(りほこ)は傲慢で冷めていて、友人に対しても表面上だけ取り繕って接しています。

どこにいても執着できない、誰のことも好きじゃない、誰とも繋がれない。

達観しており、表面上は周りの人に合わせながら心の中では孤立している……要するに感じが悪い女の子です。

はじめはこの主人公にはまったく共感ができません。

そのほかの登場人物も、理帆子の元彼氏である若尾(わかお)は自己中心的でプライドが高く、友人であるカオリは恋愛好きのチェーンスモーカーなど、どの人物にも全く共感できないところから物語が始まります。

そのため、「この分厚い本をどう読み進めたものか……」と、誰もが手を止めてしまいそうになるはず……。

そんな状況を払拭してくれるのが物語の端々に登場するドラえもんです。

キーワードは「ドラえもん」と「SF(すこしふしぎ)」

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「凍りのくじら」を語る上でドラえもんの存在は欠かせません。

「ドラえもんって一体どういうこと?」と思うかもしれませんが、物語のいたるところにドラえもんのひみつ道具と藤子・F・不二雄先生の面影が出てくるのです。

たとえば、物語は10章ありますが、1章ごとのタイトルはすべてドラえもんのひみつ道具です。

  1. 「どこでもドア」
  2. 「カワイソメダル」
  3. 「もしもボックス」
  4. 「いやなことヒューズ」
  5. 「先取り約束機」

こんな具合にドラえもんのひみつ道具にちなんだストーリーが展開されていきます。

ドラえもんが嫌いな人なんていないですよね。物語に出てくる懐かしいひみつ道具の名前を聞くと、ついドラえもんの漫画をはじめから読みたくなってしまいます。

また、物語の冒頭でも藤子・F・不二雄先生の言葉が出てきます。

ぼくにとっての「SF」はサイエンス・フィクションではなくて、「少し不思議な物語」のSF(すこしふしぎ)なのです。

このSF(すこしふしぎ)という言葉が物語のキーワードです。

主人公の理帆子は藤子・F・不二雄先生を尊敬していて、いつも「スコシ・ナントカ」という言葉を頭の中に置くようになります。

それがいつの頃からか、人や物事の性質にこの言葉を当てはめる遊びをするように。

たとえば、より良い男を求めて飲み会を渡る友人のカオリは「Sukoshi Finding(少し・ファインディング)」、社会の持つ窮屈なシステムでは生きづらい元彼氏の若尾は「Sukoshi Fujiyuu(少し・不自由)」といった具合。

そのように、「スコシ・ナントカ」という言葉を使って人をバカにした遊びをしている理帆子自身についても「Sukoshi Fuzai(少し不在)」だと表現しています。

いい人ぶりながらどんな場所や友人にも対応できるけど、どこにいても自分の居場所がなく息苦しさを感じている……そんな女の子がこの物語の主人公です。

それにしても、ドラえもんのことをSF(すこしふしぎ)だなんて藤子・F・不二雄先生は言いますが、本当はSF(すごくふしぎ)な物語ですよね。

「凍りのくじら」もまさにSFな物語ですが、「すこしふしぎ」であったり、「すこしフェイバリット」であったり、「すこしフィクション」であったりと、感じ方は人それぞれ。

私はそんなSFの世界観がたまらなく好きで、読み終わったときには幸せな気持ちが胸いっぱいに広がっています。

この本を読むとドラえもんがますます好きになりますよ。

ドラえもんのエピソードがいたるところに出てくるため、ついつい本作を読みたくなってしまいます。

実際に私が「凍りのくじら」を読み終わって買った本は紛れもなく「ドラえもん」でした!

いつの間にか物語にのめり込む

そんなドラえもんの力を借りながら読み進めていくと、物語にどんどん引き込まれていきます。

「写真を撮らせてほしい」と言って突然現れた別所(べっしょ)という青年に出会い、理帆子は少しずつ変わっていきます。

別所の優しさが、孤独だった理帆子の心を少しずつ癒し、別所の知人である郁也(いくや)と多恵(たえ)との出会いによって、さらに物語は穏やかに進んでいきます。

ところが、不穏な警告が鳴り響き、物語は思いも寄らぬ方向に急転下していきます。

これ以上書くとネタバレになってしまうので、もし気になった方は実際に読んでみてください。

読みはじめたときはまったく共感できなかったはずなのに、いつの間にか理帆子と自分を重ね合わせて、感情移入している自分に気付かされます。

書評

私が「凍りのくじら」に出会ったのは8年前で、たまたま本屋で見かけた帯の文字が気になったことがきっかけでした。

本当に大切なものがなくなって、どうしようもなく、後悔して、その時、私は耐えることができるだろうか

この言葉に惹かれてなんとなく買いました。それがこんなに好きな本になるとは。

8年経った今でも、この素敵な本と出会えた喜びは忘れられません。

「凍りのくじら」は希望を書いている本だと私は思いますが、物語の雰囲気は暗いです。
物語全体に「すこし不安定」な若者特有の陰鬱さ、そして、ところどころ狂気も感じます。

たとえば、理帆子が人を見下す心理描写は正直不快です。
また、元彼氏の若尾の行動は恐ろしく感じるほど狂気じみています。

こういった点から、人によっては読みにくいと感じるかもしれません。

誰が読んでも面白いというような、万人ウケする本ではないでしょう。

私のように100点をつける人と、「まったく面白くなかった」と0点をつける人が同じくらいいてもおかしくない、そんな尖った本です。

実際にこの本を読んだ私の友人に感想を聞いてみたところ、「すごく良かった!」という人と「イマイチだった……」という人に二極化されました。

少なくない数の本を読んで、人におすすめしてきた私ですが、ここまで感想が二極化した本は珍しく、他にはありません。

好きな人にだけおすすめしたくなる本

「凍りのくじら」を読んで涙を流す人がどれほどいるのかわかりません。そもそも泣くような本ではないような気がします。しかし、私は何回も泣きました。

「泣ける本」と評価してしまうと薄っぺらく聞こえるかもしれません。

それでも、「凍りのくじら」が私の心に深く刺さり、何度読んでも涙を流してしまう本だったという事実はお伝えしておきたいのです。

特にクライマックスでは、理帆子に感情移入しまくりでボロボロ泣きました。

いい本を読んだとき誰かにおすすめしたくなりますが、「凍りのくじら」は違います。この本は私が好きな人にだけおすすめしたくなる本です。

「面白い本」と「好きな本」の位置付けは少し違います。

誰が読んでも面白く、ベストセラーになって映画化までされるような本と、いつまで経っても自分の心に残っている本は違いますよね。

「凍りのくじら」は私の好きな本です。自分の弱みを見せられる私の好きな人に読んでほしいと思える作品です。

辻村作品について

ところで、直木賞作家である辻村深月の小説を読んだことがありますか? 松坂桃李と桐谷美玲が主演した「ツナグ」が映画化されたのでご存知の方も多いかもしれません。

その中でもっとも有名な著書は何と言っても第147回直木賞を受賞した「鍵のない夢を見る」ではないでしょうか。

そして、直木賞受賞がきっかけとなり、はじめて辻村作品を手に取って「鍵のない夢を見る」を読んだ方はこう思うはずです。

「なんて暗いんだ……」

そうなんです。めっちゃ暗いんです! まさにタイトル通りで鍵のない夢を見ているような、そんな本です。

そのため、「鍵のない夢を見る」ではじめて辻村作品を手に取った人は気が滅入ってしまって、なかなか他の本まで手にしないのではないかと思います。

でも、そんな人が「凍りのくじら」を読んだら、辻村作品の印象がかなり変わるのではないかと思います。

この本を読み終えたとき、「希望」や「光」を感じるからです。そして、辻村深月はモンスター作家だと思い知らされるはずです。

まとめ

今回の記事は、このブログ初めての投稿です。

なんの迷いもなく「凍りのくじら」を選んだのは、「私がもっとも紹介したい本はどれだろう?」と考えたときに、真っ先に浮かんだ本だからです。

それほど好きで、記事を読んだ人が置いてきぼりになってしまうほど突っ走ってしまいました……。

この本が好きな方と一緒に話すことができたら面白いだろうなと思います。凍りのくじらファンの方いらっしゃいませんか?

もしよかったらコメントお待ちしております!

「凍りのくじら」や辻村深月さんの作品についての感想はもちろん、他にも今後感想記事を読みたい作品のリクエストなど、どしどしお寄せください!!