先日、とてもいい本をTwitterのフォロワー(濁流。@oresama510)様に教えていただきました。
その本は、町田そのこさんの「52ヘルツのクジラたち」です。
以前から「装幀が素敵だな」と気になっていた本だったので、書店で見つけてすぐに購入しました。
内容を全く見ずに買ったので“虐待”という重たいテーマの作品だったとは思いも寄らず、読み始めるまで躊躇して数週間……。
意を決してゆっくりと読むことを決めページをめくり始めると、思いのほか読み口は軽く、愛情を感じる温かい物語でした。
先日発表された本屋大賞でも見事に大賞を受賞した、今もっとも注目度の高い作品です。
今回は町田そのこさんの「52ヘルツのクジラたち」のブックレビューをお届けします。
あらすじ
ある事件をきっかけに東京から九州の片田舎に移り住んできたキナコは、母親から「ムシ」と呼ばれ、虐待に苦しむ少年と出会います。
身体中に痣を持ち、空腹に耐える少年は、人とろくに言葉を交わすこともできません。
自身も家族に虐げられてきた経験を持つキナコはそれを見過ごすことができず、血縁もなく偶然出会っただけの少年が健やかに暮らせる生活を手に入れるべく戦うことを決意します。
次第に明かされるキナコの薄暗い過去と、今を苦しむ少年の過酷な現実。
それを乗り越える手立ては果たして存在するでしょうか……?
傷ついた2人が出会い、支えながら生活していく姿を描いた再生の物語です。
“虐待”という重たいテーマながら読みやすい!
「52ヘルツのクジラたち」は“虐待”という重たいテーマながら読み口は軽くスラスラ読める作品です。
読み始める前は“虐待”という言葉を聞いて、天童荒太さんの「永遠の仔」のようなヘビー級な読み応えなのかと身構えましたが、ライトノベルに近い読みやすさがありますね。
ちなみに「永遠の仔」を読んだときは、気持ちが落ち込んで数週間引きずりました。
(いい本ですけどね……!)
母親から「ムシ」と呼ばれ虐待を受ける少年の生活を守るために奮闘するキナコですが、物語は彼女自身が抱える心の闇にもスポットが当てられます。
一体何が起きて現在の生活に至るのか気になる展開になっており、ゆっくり読もうと思いながらもあっという間に読み終えてしまいました。
今にも消えそうな火を守るように手をかざす行動が、実は自分も温かく癒されていることに気付かされる、そんな優しい物語です。
世界で一頭だけ実在する52ヘルツで鳴くクジラ
52ヘルツのクジラとは、他のクジラが聞き取れない高い周波数で鳴く、世界で一頭だけのクジラの個体を指します。
1989年に初めて発見され、2004年以降は毎年見つけられるようになった実在するクジラです。
たくさんの仲間がいるはずなのに、誰にも、何も届かない。
そのため、世界で一番孤独だと言われているクジラです。
「52ヘルツのクジラ」はこの作品のタイトルにも採用されており、物語で描かれる孤独さを的確に表現していますが、“クジラたち”と複数形になっているところに救いを感じます。
本を読み終えた時に声が届く相手が存在するという安心感に気付き、物語の根底にある「孤独ではない」という意味が込められた素晴らしいタイトルですね。
52ヘルツで鳴くクジラに思いを馳せ、いつか仲間と出会って欲しいと願わずにはいられません。
本屋大賞2021など受賞多数!
「52ヘルツのクジラたち」は、2021年4月に発表された本屋大賞で見事に大賞を受賞したほかにも、「王様のブランチBOOK大賞2020」や「読書メーターOF THE YEAR 2020第1位」など受賞多数で話題になっています。
大賞に輝いた本屋大賞では365.5点を獲得し、2位の青山美智子さん著の「お探し物は図書室まで」の287.5点を大きく突き放しました!
※本屋大賞は書店員が選ぶ文学賞で、ノミネート作品をすべて読んだ上で、全作品に感想コメントを書き、1位=3点、2位=2点、3位=1.5点の得点を付けた得票で選ばれます。
ちなみに「お探し物は図書室まで」は未読ですが、とても評判が良いので次に読んでみたいと思っております。
本屋大賞受賞作品は、恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」や、辻村深月さんの「かがみの孤城」など私の好みに合った本が多いので、信憑性がありますね……!
次回の大賞も楽しみです!
まとめ
「52ヘルツのクジラたち」は、“虐待”をテーマにした作品ですが、重さを感じさせない読みやすい作品です。
本屋大賞を受賞したことから、今書店員がもっとも売りたい本でもありますね!
個人的にはとても好きな作品でしたので、辻村深月さんの「凍りのくじら」や、古内一絵さんの「マカン・マラン」シリーズのような作風が好きな方にオススメです!
Twitterで私におすすめいただきました濁流さま、ありがとうございました!