羽海野チカの「3月のライオン」は心を揺さぶる優しい物語

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今回は私が1番好きな漫画である羽海野(うみの)チカさんの「3月のライオン」を紹介します。

私は読書が好きですが本に劣らず漫画も大好きで、今まで沢山の漫画を読んできました。

その中でも「3月のライオン」は10年以上愛読している大好きな作品です。

羽海野チカさんといえば、大学生活の恋愛や進路などで悩める若者達を描いた青春群像劇「ハチミツとクローバー(通称ハチクロ)」の著者として名が知れた漫画家。

「3月のライオン」はそのハチクロの次に描かれ、現在もヤングアニマルで連載されている「将棋」の世界を舞台にした作品です。

NHKでアニメ化され、神木隆之介が主演となり映画化もされたので、タイトルをご存知の方も多いのではないでしょうか。

傷付きながらも精一杯生きていることに勇気付けられ、思いやりのある言葉が胸にしみわたる心地よい作品です。

羽海野チカさんの温かい画風ともマッチした、心揺さぶる優しい物語「3月のライオン」のブックレビューをお届けします。

心にやすらぎを取り戻していく優しい物語

主人公は東京の下町に1人で暮らす17歳の将棋のプロ棋士=桐山零(きりやまれい)。
彼は事故で家族を失い、深い孤独を抱えた少年でした。

幼い頃から父の影響を受けてはじめた将棋で頭角を現した零ですが、学校には友人が1人もいない筋金入りのいじめられっ子。

家族を失い身寄りのなくなった零は、父の友人であるプロ棋士の幸田(こうだ)に内弟子として引き取られます。

過酷な運命にも耐え、自分の居場所を得るために将棋盤にしがみつき中学生でプロ棋士となり独立した零。

それは大海原に放り出され、泳いで泳いで泳ぎ抜いた果てにようやくたどり着いた安息の地。
疲れ切った零は、そこから再び前に進んでいく理由を何一つ持っていませんでした。

そんな彼の前に現れたのはあかり・ひなた・モモの3姉妹。

彼女たちと接するうちに、零は大切な人と生きる希望を見つけていきます。

人の温かさに触れ、つながりに気付きながら失ったものを取り戻していく、心を揺さぶる優しい物語です。

人とのつながりの大切さに気付き成長していく

孤独だった零は、仲間や大切な人たちの存在に気付き、将棋を通じて自分とも向き合いながら成長していきます。

友情や愛情に触れ、大切な人を守りたいと願ったとき、零ははじめて自身への強さを求め奮闘することに……。

その不器用な姿は健気で微笑ましく、優しい気持ちが胸に広がります。

零だけでなく、あかり・ひなた・モモの3姉妹も辛い過去を抱え、それでも助け合いながら前向きに生活を送る日々。

そんな人とのつながりによって生まれる「自分は1人ではない」と思える絆が零たちを強くしていきます。

3姉妹との出会いがきっかけとなり零は人と繋がっていることに気付くことができましたが、その絆は突然現れたものではなく以前から変わらずあったもの。

たとえ周りの世界が変わらなくとも、人とのつながりに気付き自分が変わることで180度違う世界になり得るのです。

「3月のライオン」を読むと人と手を繋いだときのような温かさを感じ、私はその温もりが好きで、繰り返し読んでは力をもらってきました。

ずっと手元に置いておきたい、私の大切な作品です。

「いじめ」や「家庭崩壊」など重いテーマも描く

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羽海野チカ著「3月のライオン」5巻より

3月のライオンは「いじめ」「家庭崩壊」といった、重いテーマをがっつりと扱っていることも特徴のひとつ。

話の結末として、いじめの爪痕がなくなるわけではなく、壊れた親子関係が元に戻るということもありません。

しかし、ただ暗いだけの話なのかというと決してそうではなく、前向きに、そして優しい気持ちになれる作品です。

物語の中で描かれるのは困難に立ち向かうその闘志。

辛いことにも負けずに奮闘する零たちの姿に何度も勇気付けられ、羽海野さんの優しい画風と力強い言葉が胸に染み渡ります。

私は何度も読み直していますが、その度に心に残る言葉たちと出会ってきました。

今回読み直した際には、「自分のひとりぼっちに気を取られ、誰かのひとりぼっちに気づけないでいた」という言葉が胸に刺さり頭から離れません。

ヤングアニマルというあまりヤングではないアダルト色の強い青年漫画雑誌に連載しておりますが、学校図書に推薦したいくらい健全で中高生にも読んでほしい作品です。

重いテーマが描かれますが、作品の中は優しさで溢れています。

「ニャー」たちの光るキャラクター性

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羽海野チカ著「3月のライオン」1巻より

「3月のライオン」は情緒的なところだけでなく、ほのぼのとした笑みが生まれる可笑しみも描かれます。

シリアスとコミカルがうまく重ねられる作風は、まさに羽海野さんの漫画の味。

ギャグ漫画を彷彿とさせるようなセリフの往来もコミカルで面白いのですが、縁の下の力持ち的な役割を果たしているのは猫(通称ニャー)たちがいいキャラクターを出しているところ。

いつも「ご飯をまだ食べていない」と嘘をつく食いしん坊のニャーたちが可愛らしく私は毎回チェックしています。

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羽海野チカ著「3月のライオン」1巻より

ニャーたちのセリフに注目したり、あり得ない姿で寝ているのを探したり、彼らの光るキャラクター性には目が離せません!

また、各章の扉絵がストーリー性のある1ページ漫画になっていたり、“あとがき”の漫画がこれまたいい味を出していたりと、本編以外のサブ的要素でも楽しめます。

特に羽海野さんのキャラが前面に押し出された“あとがき”はとても面白くて大好きです。

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ネガティブな著者の心情を描く3巻のあとがき

ネガティブエンジンを4基も搭載した後ろ向きなところをここまで愉快に描けるのがたまりません!

著者のセンスを感じます!

映画はヒットせず!?

冒頭に書いたように「3月のライオン」は、神木隆之介さん、有村架純さんの主演で映画化もされておりメディアでの露出が多くありました。

興行収入も期待されていましたが、蓋を開けてみるとまさかの大爆死であったといいます。

全国293スクリーンで上映されたにもかかわらず、ランキングでは第1週目が7位で、2週目以降は圏外と全く振るわず……。

実は私も気になりつつも原作愛が強すぎて敬遠しており、今まで映画版は観ていませんでした。

そんな中、どうやら「3月のライオン」の映画は、Amazonプライム・ビデオの対象作品であるとの情報が……!

Amazonプライム・ビデオ月額400円で動画見放題というかなりお得感のあるサービス。

ちなみにAmazonプライム会員になると、動画以外にも小説や音楽を楽しめたり、通信販売での配送特典などもあります。

30日間の無料トライアルもあるということで、これを機に登録してみることに……!

さっそく「3月のライオン」を視聴しましたが、なんとも暗い感じに仕上がっていました。

原作ではシリアスとコミカルがうまい具合に調和しているところが味なのですが、映画では完全にシリアス寄り

しかし、この重い雰囲気のストーリーでコミカル要素を出すのは難しいですね。
無理にコミカル要素があると「寒々しい映画」になりかねません。

決して悪くはないのですが、原作ファンの方は「映画と原作は別物」として観た方が楽しめそうです。

原作ファンの方がハードルを物凄く上げて映画館で観たらちょっと残念だったかもしれませんが、Amazonプライム・ビデオだとお得感が勝るため、ちょっと気になる映画を観るのにはとても良いですね!

今回良いきっかけになりました!
動画以外にも色々と使えそうなので、Amazonプライム会員はしばらく継続していこうと思います。

まとめ

「3月のライオン」は少女漫画のような優しい画風に、重く辛いテーマで挑む青春劇でありながら、アダルト色の強い青年誌に連載をしている将棋を舞台にした漫画です。

説明するほどに謎めいた作品に感じますが、老若男女が楽しめる心を揺さぶる優しい物語で、私の心を奪って離しません!

「いじめ」や「家庭崩壊」などの重いテーマが描かれますが、シリアスとコミカルのバランスが良く、物語に引き込まれます。

漫画だと侮っていると思わず涙が溢れるシーンもありますよ。

私は原画展に行くほど「3月のライオン」の大ファンで、「1番好きな漫画はなにか?」と聞かれたら迷わず「3月のライオンです」と答えます。

読み返すたびに心が温かくなる、ずっと手元に置いて大切にしたい作品です。