今回は、村山由佳さんのデビュー作「天使の卵(エンジェルス・エッグ)」を紹介します。
私が初めて読んだのは高校1年生の夏。
「おいしいコーヒーのいれ方シリーズ」にどっぷりハマった私は当時出版されていた村山由佳さんの作品を全て読みあさりました。
そんな中、手に取った「天使の卵」を読んで、そのあまりの切なさに号泣したのを今でも覚えています。
しかし、今回15年ぶりくらいに読み直したところ、意外にも全く違った印象を受けました。 読む時期やタイミングによって感想が変わることも読書の楽しみのひとつですね。
出版されたのは1993年(平成5年)。
今から25年以上前の作品ですが、私の中で決して色褪せることはありません。
切なく狂おしい純愛小説「天使の卵」のブックレビューをお届けします。
- 誰にも止められない切ない恋の物語
- 大切なものを失い、傷付き、それでも生きていく
- 「天使の卵」の続編は歩太や夏姫の10年後を描いた救いの物語
- 高校生の頃に号泣したが、35歳になって初めて冷静に読んだ!
- まとめ
誰にも止められない切ない恋の物語
19歳の予備校生である一本槍歩太(いっぽんやりあゆた)は、偶然電車で乗り合わせた清冽で凛とした佇まいに満ちた女性にひと目惚れ。
しかし、生まれて初めて経験する激しい感情の揺れに動揺し、声を掛けることもできません。
その人にはもう会うことはないと諦めかけていた頃、精神科の病棟に入院する父の新しい担当医として再会を果たします。
彼女の名前は五堂春妃(ごどうはるひ)。8歳年上の精神科医。
高校時代からのガールフレンドである斎藤夏姫(さいとうなつき)に後ろめたい気持ちはありながら、歩太の心は誰にも止められません。
しかし歩太は大学にも入っていない予備校生。
彼女への思いがどんなに強くても、対等に付き合える立場ですらなく苦悩します。
子供から大人へと揺れる感情の変化と、燃えるような恋愛の果てにたどり着いた切なさを、みずみずしい感性で描いた純愛小説です。
大切なものを失い、傷付き、それでも生きていく
「天使の卵」は、村山由佳さんのデビュー作で、小説すばる新人賞を受賞した純愛小説です。
村山由佳さんは当作品の前にも童話やラノベで作品を刊行していましたが、プロフィールでは「天使の卵」がデビュー作となっています。
流れるような文章に美しい情景描写と丁寧な心理描写が秀逸な作品です。
明るい話ではありませんが堅苦しさは一切なく、その親しみやすさは村山由佳さんの文章ならでは。
そして、何と言ってもラストシーンの切なさが忘れられません。
大切なものを失い、傷付き、それでも生きていかなくてはならない世の中の無情さと、それを乗り越えていくことを示唆する希望が描かれた作品です。
この物語を読んでいると、普段何気なく話している言葉の重要性に気付かされます。
1度自分から発せられた言葉は、後からどんなに願っても取り消すことはできません。
果たして自分は後悔のない言葉をしっかりと選んで使えているだろうかと考えさせられました。
「天使の卵」の続編は歩太や夏姫の10年後を描いた救いの物語
「天使の卵」はこの物語だけで終わりではなく、「天使の梯子」「ヘブンリー・ブルー」「天使の柩」と続編があり、歩太や夏姫の10年後を描いた救いの物語は「天使シリーズ」として親しまれています。
私はすべて文庫化する前に単行本の発売に合わせて購入し、ドキドキしながら読んだことを覚えています。
「ヘブンリー・ブルー」が発売されたのは社会人になってからでしたが、発売日に千葉の館山への出張中に電車の中で読みました。
それからも歩太と夏姫のことが忘れられず、この切ない物語がずっと心に引っかかっており、最終章である「天使の柩」を読んでようやく救われました。
「天使の柩」が刊行されたのは、「天使の卵」から20年、「天使の梯子」から10年後です。
私にとっては青春の思い出が詰まった作品で、登場人物は物語の中で今なお生きています。
おいコーシリーズも気になって仕方がない……!
ちょっと話が逸れますが、キャラクターが生きているといえば、「天使の卵」を読むきっかけとなった「おいコーシリーズ」のショーリとかれんの2人こそです。
連載開始から20年が経ち未だに完結していませんが、ここ数年新刊がめっきり出なくなりました。
「気になって仕方がないので村山先生なんとか続編をお願いします……」と心から願っているのは私だけではないはずです。
この前、村山さんのツイッターのページで思わずつぶやいてしまいました。
私も高校生からおいコーを読み始めていつの間にかアラフォーに片足突っ込んでいるオッサンに……。
— ユウ (@sutekinayokan) 2018年12月31日
いつまでも待ってます。
こんなに「続きが読みたい!」と切望している作品は他にありません。
もちろんいつまでも待ち続けます!
高校生の頃に号泣したが、35歳になって初めて冷静に読んだ!
つい先日、「泣けるような感動的な本を探しているけど、何を読んだらいいのかわからない」という人の参考になればと思い、“泣ける本8選”という記事の選書をしていました。
このとき、私はもちろんこの作品を手に取りました。
そして久しぶり(実に15年以上ぶりくらい!?)に再読したところ、意外と冷静に読めてしまいました。
前半部分は流れるような文章の美しさに感動を覚え、後半部分で泣けるかなと期待していましたが、結局泣けずに読了。
泣けなかった理由は、当時気付かなかった価値観の違いを感じてしまったからです。
例えば、働いてもいないのに歩太くんの行動は軽率だなと思ってしまいました。
それが若さゆえかもしれませんが、本当に大切な人だったら気をつけることがあるはず。
「私だったら絶対にない」と思ってしまったところで共感が薄れてしまい涙は出ませんでした。
高校生だった当時は何もわからず素直に読めていたのだなと(笑)。
そんな訳で、「泣ける本8選」の記事には載せなかったのですが、やはり思い入れが強く、作品としては決して色褪せていないと感じたので今回単独で記事を書くことにしました。
「天使の卵」は、感性の良さが際立った作品で、色や形、香りといったさまざまなことに対して感覚を豊かにしてくれます。
続編の「天使シリーズ」もその豊かな表現力は健在で、とても印象深い私の大好きな作品です。
(もしかしたら続編を読んだら泣けるかも?)
せっかく「天使の卵」を久々に読んだので、天使シリーズも再読してみようかと思います。
最近、村山さんの本から遠ざかっていたのですが、とても懐かしく改めて村山作品への愛を感じることができました。
まとめ
「天使の卵」は25年も前の作品ですが、今読んでも色褪せずに心に残る切ない純愛小説です。
恋愛小説といえば村山由佳さんの代名詞でもありますが、デビュー作からその実力は遺憾無く発揮されています。
明るい物語ではありませんが、大切な人の存在や交わす言葉の重要性について改めて考えさせられました。
流れるような文章に、美しい情景描写と丁寧な心理描写が読んでいて心地よい、恋愛小説の金字塔と言える作品です。