朱川湊人の「本日、サービスデー」は正直イマイチでした……!

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今回紹介する朱川湊人(しゅかわみなと)さんの「本日、サービスデー」は、感想を先に述べてしまうと読後感が悪く私には合わない本でした。

その理由としては、短編集として作品同士の雰囲気のギャップが大きすぎるためです。

そのタイトルと装丁から読み口の軽い小説なのかと思いきや(表題作は実際にそうなのですが)、収録作品のホラー要素が強く、その怖さに驚かされました。

また、ただ怖いだけでなく悪趣味な内容となっており、はっきり言って他の作品との調和が全く取れていません。

テイストの異なる作品が収録され、作品ごとの雰囲気の違いをまとめて楽しめるのも短編集ならではの魅力です。

しかし、「本日、サービスデー」は悪い意味でテイストの差が激しく、結果として低評価となってしまいました。

文章自体は読みやすい短編集となっているだけに、非常に残念な作品でもありますね。
構成次第でもっと後味よくできたはずのような……。

今回は少し辛口レビューではありますが、直木賞作家である朱川湊人さんが贈る「本日サービスデー」のブックレビューをお届けします。

「本日、サービスデー」はリアリティがなくイマイチな作品

表題作の「本日、サービスデー」は、しがないサラリーマンが人生に1度だけあるどんな願いでも叶う「サービスデー」に振り回される物語。

本来、サービスデーは本人には知らされませんが、世界の秩序を乱すことを目的に悪魔がそそのかしにやってきます。

それを防ぐために天使も現れ、主人公は混乱の渦に巻き込まれていくというあらすじ。

読みやすそうで興味を惹かれる内容なのですが、せっかくのサービスデーなのに、主人公の願いが軽すぎて拍子抜けしてしまいました。

人生で1度きりの何でも願い事が叶う日に「仕事で大きな商談を決める」なんて私なら絶対にやりません。

オープンテラスでお茶を飲む美女と一緒にコーヒーを飲むってそんなに嬉しいでしょうか……。

「人間の欲望はこんなものじゃないだろうな」と私は思ってしまい、リアリティがなく世界観も中途半端な印象を受けました。

ちょっと辛口ですが、いまひとつだったなという感想です。

「東京しあわせクラブ」は怖すぎて読後感が悪すぎ!

私が「本日、サービスデー」を短編集としてイマイチだと評価している要因として大きいのは、収録されている作品同士でのバランスが全く取れていないこと。

その最大の原因となっているのが、2章目の「東京しあわせクラブ」です。

この話は、殺人事件などで亡くなった被害者の遺留品や関わりの深い物を持ち寄って品評をしあう悪趣味なクラブ。

  • 虐待で殺された子供が住んでいた家の表札
  • 若い女性が殺害され河原で燃やされた際に下にあった煤だらけの石
  • 通り魔に襲われ亡くなった被害者が妹に宛てた手紙

そんなコレクションを持ち寄って、裏付けを示しながらA・B・Cとランク付けをして品評をしていきます。

「本日、サービスデー」という読みやすそうな漫画調の装丁が施された短編集を手にとって、まさかこんな趣味の悪い話に出会うとは思わず、かなり度肝を抜かされました。

登場人物のキャラクターや物語の設定はそれなりですが、あまりに悪趣味なため賛否が分かれそうな作品です。

“ホラー”というジャンルは読み合わせが難しく、少なくともこの短編集にはミスマッチだと私は感じました。

たとえ短編集であっても1冊の本として選書すべきであって、「本日、サービスデー」のような軽めの話を期待しているところにこのホラーはないだろうと思ってしまいます。

ホラーが好きで朱川湊人さんの作品が好きであればオススメできますが、はじめて朱川作品を読む人がこの短編集を読んだらトラウマになりそうです。

「世にも奇妙な物語」のようなミステリアスな作風

他の人はどんな感想を抱いたのだろうと気になってAmazonのレビュー記事を覗いてみると、夢追い虫さんという方のレビューで「世にも奇妙な物語みたい」という書評がありました。

これはまさに言い得て妙で、その通りだと思います。

どれもテレビに出てきそうな話で、そういった意味では取り掛かりやすいです。

しかし、テレビで放送できるレベルの緩い欲望物語のコンパクトさは中途半端で浅い印象を拭えません。

作品全体が醸し出すミステリアスな雰囲気は悪くないのですが、ブラックならブラックに振り切れて「人間の欲望」を深掘りした姿を見たかったです。

2章目の「東京しあわせクラブ」も「世にも奇妙な物語」の中に出てくる話と考えるといかにもありそうですね。
そういうホラーを観ようとしている状況ならアリかも。

5章目の「蒼い岸辺にて」は、自殺した女性が三途の川を渡る物語ですが、「後悔しても願えば取り戻せる」なんて現実的にも根拠が乏しく全く響きません。

このような全体的に薄っぺらい印象が最後までつきまとってしまい、中途半端さがもどかしく正直イマイチな短編集でした。

文章自体は読みやすかったため、読後感が悪かったことが残念です。

まとめ

「本日、サービスデー」はテイストの異なる作品が収録された短編集ですが、章によってはホラー要素が強く肝を冷やされます。

文章は読みやすいのですが、内容が浅く読後感もいまいちで善にも悪にも振り切れていない中途半端な印象が拭えません。

「ホラー」を読みたい人には軽く、「エンタメ」を読みたい人には重いので1冊の短編集として非常に微妙かも……。

今回、朱川さんの作品は初読なのですが本領発揮されていないように感じたので、直木賞受賞作の「花まんま」を読んでみようという気持ちに逆になりました。

近いうちにレビューします!

辛口ですが、本作は今ひとつでした。