令和の古畑任三郎!?相沢沙呼の「invert(インヴァート)」は拍手喝采のエンターテイメント倒述ミステリ!

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ちゃーらーん!

さてさて、紳士淑女の皆さま。 大変長らくお待たせしました。

2020年にミステリ界を賑わせた「medium 霊媒探偵城塚翡翠」の続編が、この度ついに刊行と相成りました。

「まさか、あの伝説のミステリの続編が……!?」と誰もが驚いたことでしょう。
かくいう私も度肝を抜かれたことは言うまでもありません。

前作であれだけのことをしでかしておきながら、まさか続編が出るなんて……!?

著者の相沢さんの挑戦挑発に感服しながら今作の副題を見てみると「城塚翡翠倒述集」とのこと。

倒述集……? 倒述ミステリ……つまり、犯人目線のお話です。

もうあの時には戻れない翡翠ちゃんの活躍やいかに……!

今回は、相沢沙呼さんの会心作「invert(インヴァート)城塚翡翠倒述集」のブックレビューをお届けします。

sutekinayokan.hatenablog.com

ネタバレ注意!

この作品は前作「medium 霊媒探偵城塚翡翠」の結末に触れています。

この本を100%楽しみたい未読の方は、本屋に走って「medium 霊媒探偵城塚翡翠」を読むことを強くオススメします!(推奨)

あらすじ

緻密な犯罪計画により実行された殺人事件を、霊媒の力で解き明かしていく城塚翡翠(じょうづかひすい)。

完璧な計画も、鉄壁のアリバイも翡翠の前では為す術もなく、次々と真実を暴いていきます。

しかし、霊媒の力に証拠能力はありません。

そこで、犯人と探偵とが繰り広げる証拠の掴み合いが加速します。

すべてを見通す翡翠の目から、犯人たちは逃れられるのか……!?

犯人視点で描かれる倒述ミステリの中編集です。

著者の相沢沙呼さんに敬意を表したくなる作品!

冒頭にも書きましたが、まずなによりもあれほど話題となった「medium」の続編が出ると聞いて、心底驚いたのは私だけではないはずです。

前作であれだけのことをしでかした作品なので、私は絶対に続編は出ないと決めつけておりました。

寂しいけれど仕方ない。それだけの価値は間違いなくあった。
最高のエンターテイメントに犠牲はつきものなのだ……。

賞賛の拍手が鳴り止まず、惜しみ流した涙も乾かぬ内に、まさか続編が発表されるとは!?

この時点で著者の勝ちは決まっていましたね。
だって、読む前から大どんでん返しでしたから。

相沢沙呼さんのチャレンジ精神に敬意を表したくなる作品であることは言うまでもありません!

令和の古畑任三郎ここにあり!

肝心の内容ですが、なんとまたしても面白い……!

今は亡き田村正和さんへの追悼か、かの有名ドラマ「古畑任三郎」を見ているかのような見事なエンタメミステリ小説でした。

その完成度と親和性といったら抜群で、拙者おみそれいたしましたと頭を下げるほかありません。

読む前までは不安でしたが、翡翠ちゃんのキャラクターは図太く生きていましたし、むしろ開き直ってコミカルに描くところが潔いです。

「あれれ」と言いながら次々と矛盾を追求していくあたりは名探偵コナンかと思いました。

もうあの頃の翡翠ちゃんには戻れないだなんて大きな勘違い。てへぺろこっつんこです。

前作の結末をそのまま活かすには、倒述ミステリでしか成り立たないと思って読み始めましたが、それすら杞憂でした。

読者はそれぞれ思い描いた人物を重ねながら物語を読みます。

ある人は胡蝶しのぶ、ある人は不破愛花、ある人は古畑任三郎、ある人は江戸川コナン、はたまたある人はシャーロックホームズ……。

つまり、これが翡翠ちゃんが持つ降霊術の種明かしということでしょうか……?

ミステリ作家って凄いなぁ、どういう頭の構造しているのだろうと、心底感じさせられた作品でした。

ハードルを上げすぎた結果、面白い!

正直な感想を言うと、私は前作の「medium 霊媒探偵城塚翡翠」のインパクトを超えることはできませんでした。

更に言うと表紙のイラストについて事前に友人と予想していたこともあり、衝撃的なラストとまではいきませんでした。

また、読む前からハードルを上げすぎた点は言うまでもありません。

しかしながら読み終わってみると「やっぱり面白かった!素晴らしかった!」と素直に思います。

改めて装丁を眺めてみると、カバーや花ぎれの「赤」と、見返しやスピンの「緑」が綺麗な補色(反対色)の関係になっていることに気づき、細部に意図が散りばめられた美しさすら感じます。

物語に登場する「見にくいアヒルの子」とはそういうことか、といったように読み終えた後だからこそわかる真実へのヒントも沢山散りばめられており、再読したら更に楽しめそうですね。

初読はかなり浮き足立って読んだので、もう一度じっくりと読むことにします。

何はともあれ、大満足の作品でした!

まとめ

相沢沙呼さんの「invert 城塚翡翠倒述集」は、古畑任三郎のドラマを思い起こさせる犯人目線の倒述ミステリです。

単に犯人目線というだけでなく、翡翠の霊媒の力によって探偵側も犯人がわかっている状態から始まる異様な光景の中、探偵と犯人の証拠の掴み合いが物語のカギとなります。

様々な仕掛けが散りばめられた本作を読みながら、ミステリの謎解きを楽しむ のもよし。

かのドラマのように犯人と探偵のせめぎ合いを傍観して気楽に楽しむもよし。

翡翠ちゃんのあざといまでのかわいさに夢中になるのもよし。

楽しみ方は人それぞれ。

読み終われば拍手喝采間違いなしのエンターテイメント倒述ミステリです!