今回紹介する本は、友人からオススメされたルイス・サッカーの「穴」です。
紹介してくれたのは荒川ケンタウロスというバンドのボーカルである一戸くん(本名は“いちのへ”、あだ名は“いっと”)。
彼は大学のサークルの友人で今でも飲み仲間ですが、以前からこの本を「良かった!」「最高だ!」と絶賛していました。
2人で飲んでいる時に本の話になり、たまたまその日「穴」の文庫本を持っているというので貸してもらったのがこの本との出会い……!
「穴」の解説は直木賞作家である森絵都さんが書いているのですが、そこには「実に面白かったが、なんとも説明しがたく、一言ではくくれない」とあります。これがまた言い得て妙。
時を経て繰り広げられる壮大な物語と、神業のような伏線の回収を目の当たりにすると、簡潔に感想を述べるのは難しく「良かった!」「面白かった!」としか言い表せないのです。
今回は書評をするにはちょっと難しそうですが、ルイス・サッカーの「穴」のブックレビューをお届けします。
無実の罪から始まる壮大なストーリー
犯罪で捕まった少年たちの矯正施設であるグリーン・レイク・キャンプに無実の罪で放り込まれた主人公のスタンリー・イェルナッツ。
グリーン・レイク・キャンプとは名ばかりで、そこはグリーン(緑)どころかレイク(湖)だってないカチンコチンに干上がった焼ける大地が広がる荒野。
キャンプと言ってもガールスカウトのようなものではなく、人格形成の為に直径1.5m×深さ1.5mの筒状の穴を毎日1つずつ掘ることを命じられます。
穴を掘るのは重労働で、朝早くから起きてスコップを握り、1日1個の穴を掘り終えるまでは宿舎に戻ることは許されません。
少年たちは“人格形成の為”という理由で穴を掘らされていますが、どうやらそれは建前で所長はこの地で何かを探している様子。
一体何を探しているのかは所長以外の人間は知る由もありません。
過酷な穴掘りが永遠と繰り返されるそんなある日、キャンプ仲間のゼロが騒動を起こし、「もう穴は掘らない」と食料も水も持たずにキャンプから逃走。
数日後、スタンリーはゼロの身を案じ、キャンプから決死の脱出を試みてゼロを探しに向かいます。
友情とプライドをかけ、自らの足で歩き始めたとき、スタンリーの運命は大きく変わっていくことに……!
点が線になるように全てのことに意味があるのだと勇気付けられる、大どんでん返しのサクセスストーリーです。
高い構成力と神業のような伏線回収に圧巻!
「凄い本を読んだな」というのが、まず最初に抱いた感想です。
この1冊の本にこれほどまでに壮大な物語が待ち受けているとは思いもしませんでした。
特筆すべきはその構成力の高さ!
本編となるスタンリーの物語と並行して、いくつかの昔話が挿入されているのですが、それらが繊細に絡み合って1つの大きな物語の輪郭となっています。
驚かされるのは複雑さをほとんど感じさせないということです。
伏線となる昔話やスタンリーの境遇は1つ1つ味わい深く内容は濃いのですが、迷うことなく物語に没頭することができます。
様々な場面で張り巡らせた伏線を神業のように回収していき、思いもよらない展開が待ち受け、最後には笑わせてくれる飽きのこない結末に、誰もが「面白かった」と感想を漏らすはず……!
あみだくじを辿るとき、複雑な迷路のように見えて実は進む方向が決まっており、右に行ったり左に行ったり紆余曲折ありますが、振り返ってみると来るべくしてここにたどり着いたと一目瞭然にわかります。
この作品はまさにあみだくじのようで、全てが繋がってなるべくしてこうなった、言い換えれば「運命」というものを感じずにはいられない作品です。
点が線になるストーリーに拍手喝采!
“過去に起きた点の出来事が、また別の点の出来事と繋がることで線となり人生を形どっていく”とよく言われますが、この物語はまさに点が線になる連続です。
スタンリーはいつも運が悪く、過酷な状況におかれ、悪いことばかりが起こります。
しかし、物語を終えて見ると、その悪い出来事はスタンリーが成功するためには1つたりとも欠かせません。
どんなに悪い出来事でもすべてのことに意味があるのだと勇気付けられます。
ここまで緻密にストーリーを練ってこの壮大な物語を世に届けてくれた著者のルイス・サッカー氏は偉大です!
何かに挑戦したいと考えている方は、「穴」を読むときっと勇気をもらえますよ。
全米では児童書として350万部を超える大ベストセラーに!
著者のルイス・サッカー氏はアメリカで子供達から絶大な支持を受けている人気作家です。
1998年に刊行された当作品は全米図書賞やニューベリー賞など数多くの賞を受賞し、全米で350万部を超える大ベストセラーとなっております。
ニューベリー賞というのはアメリカで出版された児童書の中でもっとも優れたものに対し1度贈られる権威ある児童文学賞。
そうです。つまり、「穴」は児童文学(ジュブナイル小説)なのです。
だからこそ、読みやすく複雑さを感じさせない構成で、最終的には成功する夢のある物語になっているのだと納得!
グリーン・レイク・キャンプで穴を掘る少年はみんな訳があってこの地に連れて来られていますが、黒人も白人も関係なく、肌の色は違えどみんな同じく土で汚れて真っ黒です。
そこには人種差別はありません。
しかし、実際の社会では人種差別があり、貧富の差もあり、理不尽な出来事は当たり前のように起こります。
この不平等の世界では、万人が平等で才能と努力次第ではいくらでも上昇できるアメリカン・ドリームの考え方には信憑性を感じません。
そのため、著書のルイス・サッカー氏はこの物語を通じて、たとえどんなに貧しくてもどんなに理不尽でも希望はあるということを、子供達に伝えたかったのではないかと私は感じました。
装丁(カバーデザイン)とあらすじをパッと見た感じ陰鬱そうな小説に見えますが、決して暗い話ではありません。
児童書と言われなければ気付かないほどしっかりとした物語なので、もちろん大人でも楽しめますよ。
また、児童文学ゆえに英語の原文も読みやすく、英語本の多読を目指している人にもおすすめの1冊です。
大ヒットから映画化もされた!
「穴」は日本ではそれほど知られていませんが、ウォルト・ディズニーから映画化もされています
その脚本も著者であるルイス・サッカー氏が担当しているため、内容はほぼ原作通りの再現度。
117分の限られた時間の中でよくまとめられており、映画好きの人にもオススメできる作品です。
日本ではマイナーな映画館でしか上映されず知っている人がほとんどいないのですが、映画版も家族で観れるファミリー映画として楽しめますよ。
キャストも豪華で「エイリアン」主演のシガーニー・ウィーバーや、「パール・ハーバー」のジョン・ボイトなど豪華共演で、全米初登場2位、6週間トップ10入りの大ヒットを記録!
私は本を読んでから映画版も気になった為、Amazonで中古品のDVDを購入しました。
(送料込みで1,000円くらいでしたが、状態が“非常に良い”を選んだのでほぼ新品と変わりません)
映画版も本に負けず劣らず良い作品です!
まとめ
今回友人からオススメされた「穴」を紹介しましたが、お世辞抜きでかなりの良作でした。
1年くらい前に読んで借りたまままだ持っているのですが(一戸くんごめん!)、返したら自分用に1冊買い直したいと思っています。
むしろ買った新品をお詫びとして返せという話ですね。
私はあまり外国人作家の翻訳本を読まずにきましたが、新たな可能性が広がった1冊でもありました。
やはり読まず嫌いで挑戦しないのはもったいないですね!
「穴」は点が線となる過程が面白く、全てのことに意味はあるのだと勇気付けられる作品です。
たとえどんなに平等とはかけ離れた理不尽な環境でも、自らの意思で踏み出す勇気があれば誰にだって希望はあるのだと教えられます。
アメリカン・ドリームよりも、よほど説得力のある物語。
それがルイス・サッカー氏の「穴 HOLES」です。
荒川ケンタウロスのファンの方も要チェックな作品ですよ!