古内一絵の「銀色のマーメイド」は「マカン・マラン」の原点と称される胸熱青春小説!

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「マカン・マラン」のファンの方に是非読んでほしい作品があります。

それが古内一絵さんのデビュー作「銀色のマーメイド」です。

「マカン・マラン」でおなじみのシャールジャダ柳田先生が登場し、まるでスピンオフ小説のように楽しめます。

まさかデビュー作でここまで完成されたキャラクターが登場するなんて驚きの一言です……!

性同一性障害に苦しむ中学生の葛藤と、廃部寸前に陥った水泳部の存続をかけた青春物語。

今回は、「マカン・マラン」の原点と称される「銀色のマーメイド」のブックレビューをお届けします。

性同一性障害に苦しむ中学生の葛藤と水泳部の存続をかけた青春劇!

主将で幼馴染のタケルが交通事故で亡くなったことで退部者が相次ぎ、廃部寸前となった水泳部。

今まで自分の泳ぎにしか興味がなかった3年生の龍一は、成り行きから主将代理となって水泳部をまとめていくことに。

しかし、部に残ったのはメンバーは、アニメオタクと泳げない水中歩行要員のみ。

初めは自分が都大会に出場できれば良いと考えていた龍一でしたが、次第に水泳部のために意識が変わっていきます。

そんな中、部の存続のため部員集めに奔走する龍一は、市民プールで人魚のように美しく泳ぐ同級生・雪村襟香を見つけスカウトしましたが、頑なに拒絶されてしまいます。

謎の多い美少女・襟香には人に言えない秘密苦悩がありました。

性同一性障害に苦しむ葛藤と、水泳部の存続をかけた青春小説です。

読むほどに胸が熱くなる!

「銀色のマーメイド」は中学生の水泳部を描いた作品ですが、ただのスポ根小説ではありません。

主人公である龍一の部活動に対する心の変化と、性同一性障害で苦しむ襟香の葛藤、そして泳ぐことに真剣に向き合っていく水泳部員の成長が頼もしく、そこに作品としての面白さがあります。

そもそも水泳は個人競技です。

メドレーリレーというチーム種目もありますが、基本的には個人の実力が物を言う世界。
泳ぐことにひたすら打ち込み、努力を重ねていくことが求められます。

しかし、“部活動”としての意義を考えると、水泳部は個人だけでは成り立ちません。

自分の泳ぎを追求するだけでなく後輩を指導していくことや、お互いを尊重しチームとして団結していく学びの場でもあるのです。

バラバラだった水泳部員が力を合わせて成長していく姿を目の当たりにすると、読むほどに胸が熱くなり、涙を堪えるシーンが何度もありました。

仲間と共に逆境を乗り越えていく姿が清々しい友情の物語です。

「マカン・マラン」のスピンオフとしても読める!

この作品の醍醐味は、なんといっても「マカン・マラン」に登場するキャラクターに再び出会えることへの喜びです。

といっても、「銀色のマーメイド」の方が先に刊行されているので本来は逆なのですが、私は「マカン・マラン」が大好きなので、再びシャールやジャダの声が聞けて純粋に嬉しくなりました。

デビュー当時からこんなに濃厚で素敵なキャラクターが生まれていたなんて驚きです!

ちなみに、「マカン・マラン」のファンの方はお気付きかと思いますが、謎の美少女・雪村襟香は「マカン・マラン」の4巻の最後に登場します。

作中でも紹介されていますが、エリックと名乗る青年こそが雪村襟香です。

「マカン・マラン」だけを読んでいると、突然現れるエリックの存在がよくわからないですが、その謎は「銀色のマーメイド」を読むことで解決します。

まだ未読で興味のある方は、是非この熱い物語を読んでみてください!

性同一性障害(GID)を身近に感じることができる作品

「心は男なのに、体は間違って女に生まれてしまった」というように、自分の心と性の不一致が起こる症例を「Gender Identity Disorder」「性同一性障害」「GID」と呼びます。

古い話ですが、ドラマ「3年B組金八先生(第6シリーズ)」で上戸彩さんが演じた“鶴本直(つるもとなお)”という生徒がまさにGIDでした。

今から20年近く前の当時は現在よりもずっと認知も理解もされておらず、私自身このドラマを見て初めてそのような症例があることを知り、衝撃を受けたのを覚えています。

いまだにそのドラマのことが印象に残っており、そのおかげでGIDに対してのフラットな気持ちを忘れていません。

「銀色のマーメイド」も同じようにGIDを知るきっかけとなり、様々な人間性を偏見なく見ることができます。

GIDという重いテーマを語るには、設定が軽すぎて少し無理があるようにも感じますが、逆にその軽快さがこの物語の魅力です。

個人的にはとても楽しく読むことができました。

文章が読みやすく学ぶところが多いので、中学・高校の学校図書に推薦したい一冊です。

まとめ

「マカン・マラン」の原点と称される「銀色のマーメイド」は、胸が熱くなる青春小説です。

スポ根小説とは一線を画し、“成長““苦悩”というテーマの元に、仲間と力を合わせることの大切さが描かれます。

シャールやジャダの昔の姿も見られるので、「マカン・マラン」ファンの方は絶対に読んだ方がいいですよ。

「性同一性障害」という重いテーマを扱っていながら、読み口は軽く読みやすい、オススメの1冊です!