程よい謎解きの心温まるミステリー!成田名璃子の「不機嫌なコルドニエ」

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今回紹介する作品は、成田名璃子(なりたなりこ)さんのハートフルミステリー「不機嫌なコルドニエ」です。

コルドニエというのはフランス語で「靴屋」のこと。

この作品は、腕利きの靴職人が靴屋に訪れる顧客が抱えた悩みを「靴の声」を聞きながら解きほぐしていく、心温まるミステリー小説です。

ハートフルミステリーと聞くと、「謎解き要素は大したことがないのではないか」と思われがちですが、決してそんなことはありません!

程よい謎めき感と、成田名璃子さんの作品特有の温かさが絶妙にマッチしており、私は想像もできなかった意外な展開に読む手を止めることができませんでした。

ほのぼのミステリーだと油断していると、最後にびっくりさせられますよ……!

今回は、靴職人のオーダーメイド謎解き日誌「不機嫌なコルドニエ」のブックレビューをお届けします。

腕利き靴職人が顧客の悩みを解きほぐすハートフルミステリー!

舞台は横浜元町商店街に佇む古びた靴修理店「コルドニエ・アマノ」。

店主である天野健吾(あまのけんご)は腕利きのビスポークシューズ(オーダーメイド靴)職人として名を馳せていました。

ある日、デザイナーとして働くために紹介された湯浅京香(ゆあさきょうか)が店を訪ねると、事前に聞いていた話と随分異なります。

京香は天野の古い友人である恋人から「パンプスの得意なデザイナーを探している」と聞いて、デザイン留学していたイタリアから帰国しましたが、コルドニエ・アマノには女性物のパンプスが一切飾られていないのです。

デザイナーとして働くことになったにもかかわらず、京香にはデザインの仕事はほとんどなく、待ち受けていたのは雑用の仕事ばかり……。

同僚の前園雄大(まえぞのゆうだい)に慰められながらも、買い出しや靴のクリーニングなどの雑務をこなす日々。

そんな中、コルドニエ・アマノには「霊が憑いている靴を修理して欲しい」「ハイヒールの踵を取ってフラットにして欲しい」など、奇妙な依頼ばかりが次々と舞い込んできます。

変わった依頼に困惑しながらも、悩みを持って訪れた顧客のために奮闘する京香と雄大。

腕利き靴職人の天野が、依頼人が履く「靴」から情報を読み取って、顧客が抱えた悩みを解きほぐしていく、ハートフルミステリーです。

濃いキャラクターが癖になり愛着が湧く!

「不機嫌なコルドニエ」の登場人物は、キャラクターが濃くて普通の人は登場しません!

あまりのキャラの濃さに読み始めは戸惑いますが、だんだん癖になって愛着が湧いてきます。
特にいい味出しているのは店主の天野……ではなく、天野の元で修行を積んでいる助手の雄大。

彼は親友のお人形である“みぃちゃん”に話しかけながら、手作りのお菓子を振舞い、一流の靴職人を目指して仕事に励みます。

素直な心そのままで明るく無邪気なさまは、まさに天真爛漫な乙女のような男の子です。

ミステリー小説にこんな中性的なキャラクターが登場するなんてインパクトありますね!笑

普通の小説なら思いっきり気持ち悪がられると思いますが、どの作品を読んでも成田名璃子さんが描くキャラクターは不思議と愛着が湧いてきます。

好き嫌いが別れるとは思いますが、私は彼の純朴さにとても癒されました!

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店主の天野はキノコカット!

また、日本で一、二を争う腕利きの靴職人である天野も負けず劣らずのキャラクターで、異様なほど切りそろえられた前髪は直線を描いています。

几帳面で偏屈な性格ですが、誰よりも靴を愛し、厳しさの内に優しさを秘めた天才靴職人です。

物語の語り部である京香は勝気でプライドの高いデザイナーですが、素直で単純なところもあって可愛げも感じます。

それぞれ突出した特徴があってデコボコそうな3人ですが、読み進めるごとにだんだんと心を繋いでいく様子は微笑ましい限り。

読み終わった後に「この3人が織りなす続編をまた読みたい」と思いました!

程よいミステリー感と、人との繋がりの温かさ!

「不機嫌なコルドニエ」は心温まるハートフルミステリーですが、意外な展開に驚かされる程よい謎めき感のある作品です。

殺人事件が起きるような本格ミステリーではないのでミステリー好きには物足りないかもしれませんが、気軽に読めるので大人から子供まで年齢問わず楽しめます。

気楽なストーリーに油断しているとラストの怒涛の展開に驚かされ、私は道端で立ち尽くしながら読みふけってしまいました!笑

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道端で立ち尽くしながら本を読む人(ユウです)

また、ただ心温まるというだけでなく、心が疼くような“痛み”を感じる要素も……。
「不機嫌なコルドニエ」を読んで、天野と同じような経験を持つ私は少しナーバスになりました。

成田名璃子さんの作品はハートウォーミングストーリーが多いですが、物語の中に憂いがあるのも特徴のひとつです。

その憂いを乗り越えた先に希望があるからこそ物語は奥深いものになり、心動かされます。

私がこの物語を好きだと思うのは、憂いの部分での共感があって、更に人生の良い部分に気づかせてくれるからです。

心が温かくなって前向きになれます。

まとめ

「不機嫌なコルドニエ」は、靴屋に訪れる顧客が抱えた悩みを解きほぐしていく心温まるハートフルミステリーです。

登場人物のキャラクターが濃く、かなりクセがあるにもかかわらず身近に感じることができるのは、成田名璃子さんの小説ならでは!

本格的なミステリーではありませんが、続きが気になる程よい謎めき感は大人から子供まで年齢を問わず楽しめる作品です。

油断していると意外な展開に続きが気になって読む手が止まらなくなるほど……!

また、ただ単に明るくて心温まるのではなく、物語の核の部分に憂いがあり、やるせなさや切なさに共感を覚えます。

人生の良い部分に気付かされ前向きになれる、ハートフルミステリーです。